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懐かしいあの空気感を記録する――ソニー「DSC-RX1」矢野渉の「金属魂」的、デジカメ試用記(1/3 ページ)

» 2012年11月22日 20時14分 公開
[矢野渉(文と撮影),ITmedia]

金属デジカメとしての印象

 35ミリフルサイズの撮像素子に、単焦点の35ミリレンズを組み合わせた高級コンパクトデジカメ。それがDSC-RX1(以下 RX1)だ。このコンセプトと25万円という価格は、同じジャンルに分類される国産デジカメの中で頭ひとつ抜けている。発売前に試用する機会を得たので、僕なりの印象をつれづれなるままに書いてみたいと思う。

photo 「DSC-RX1」 ボディーは極小、だがレンズは巨大だ。NEXシリーズにも通じる、ソニーにしかできないデザインかもしれない

 マグネシウム合金ボディの質感は極上だ。表面処理はライカのブラックペイントに似た重厚感がある。もちろんダイヤル類やレンズのリングもすべて削り出しの金属で、ほぼすき間がないぐらいの工作精度で仕上げられている。絞りリングは適度な反発を指先に残しつつ、間違いなくカチリと止まる。

 驚きなのは天面のモードダイヤルと露出補正ダイヤルで、かなりのフリクションがかけられている。意識して力を加えないと回らない構造になっているのだ。僕が過去に使ったカメラの中で最も重いダイヤルだと思う。しかしこれも「誤動作を防ぐ」という意味で、硬質なRX1の印象をより高めている。

photo ダイヤル側面のローレット加工は、モードダイヤルがピラミッドパターン、露出補正ダイヤルは平目、と細かい配慮がなされている
photo レンズのボディ側にはオレンジ色の金属リングが。デザインとしては良いが「35mm FULL-FRAME CMOS」の表記は必要だったのか……。人によっては恥ずかしく感じるかもしれない。

 このカメラを迷わず購入する人々は、間違いなく写真のマニア、ハイアマチュアに分類されるだろう。それも年齢が40〜50代以上の、フィルムの時代からずっと写真を撮り続けているような人だ。だから、古いカメラメーカーがこのジャンルのカメラを作ると、古くからのレンジファインダーカメラのテイストを残した、保守的なものになる。

 ところが家電メーカーのソニーがつくると、斬新な発想が出てくるので面白い。

photo マクロの設定は独立したリングを備えており、手動での操作ができる
photo Sonnar 35mm f2レンズは堂々として見栄えのするデザインだ。別売りのフードは欠かせないだろう

 まずファインダーが内蔵されていないこと。別売でシューに装着するガリレオ式ファインダーとEVFの2種類が用意されているが、この本体の中心部に付けるファインダーは、覗くと鼻が背面の液晶に触れて不快なのだ。やはりライカM型のように本体向かって左端にファインダーを内蔵するのが理にかなっていると思う。

 EVFでいいから、そこにファインダーを置くことで随分と印象の違うデジカメになったのではないか。ISO25800までの感度を持っているのだから、ポップアップフラッシュを思い切ってなくして、昔ながらの内蔵ファインダーをつけるほうがユーザーは喜ぶと思うのだ。

 内蔵フラッシュがあったとしても、写真生活の長い人々の設定は「フラッシュを切る」だ。今見えている光がすべてなのだから。ストロボ光をカメラ側から直接浴びせるなど、屈辱に近い行為に違いない。

photo 内蔵フラッシュはきゃしゃなポップアップ式。固定式だととレンズが邪魔をしてて画角をカバーできないための苦肉の策のようだが、カッチリと作られたRX1には不釣り合いだ

 もうひとつはメインのダイヤルがモードダイヤルであること。これにはマニアは相当の違和感を感じるはずだ。なぜここにシャッターダイヤルがないのかと。昔のレンジファインダーカメラの良さは、ストラップをつけてカメラを首からぶら下げた時、上からからカメラの情報がすべて把握できることだったのだ。

 絞り値とシャッター速度の組合せは写真撮影の基本だ。だからこのふたつの情報は同時に認識できなければならない。RX1は露出補正の値とマクロの切り替えまで上面で認識できるのだから、メインのダイヤルがシャッターダイヤルであれば完璧だったのに、と思う。なにかマニュアルでの露出決定を拒んでいるようにも見えるのだ。

 などと好き勝手に個人的な感想を書いてみたが、例えばNEXシリーズのようなデジカメを気に入って使っているような若い世代の人々にとっては、このRX1は何の違和感も無い、好ましいデジカメに違いない。写りは抜群だし、予算さえあれば欲しくなるだろう。なにしろα99と同じサイズの撮像素子で、たったひとつのレンズのために最適化して設計しているのだから、ある意味、メーカーフラッグシップのα99を超えた絵が得られるデジカメなのだ。

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