我々が他の生き物を見る時、それが動物であれ人物であれ、必ず相手の目に視線がいく。人はもともとそういう習性を持っているのだ。写真の場合も何かしらの「顔」が画面の中にあれば、意識せずに目を探す。ましてそれがポートレート、つまり肖像であればなおさらだ。従ってピントは、特別な意図がある場合を除いては、目に合っていなければならない。さもないと、見た人がものすごい違和感を覚えてしまう。この一見、当たり前の行為が、撮影の現場においては決して容易ではない。
昨今のカメラはどれもオートフォーカス機能が非常に優秀で、一昔前にくらべればスピードも精度も格段に上がった。自然環境の中で、野生動物の見せる一瞬の表情を狙う時、素早いフォーカシングは極めて重要だ。同じチャンスは二度と巡ってこないし、スタジオのように状況をコントロールできるわけでもないからだ。
ところが、オートフォーカスに頼り切ってしまうと落とし穴も待っている。例えば、哺乳類や鳥類の多くは頭が細長く、正面からだと奥行きがあり過ぎてなかなか目にピントが合わない。また、ライオンやジャッカルなどは、目と目の間がかなり出っ張っていて、くっきり写っていたのは眉間だったなどという失敗がよく起きる。
さらにフォーカスエリアをしっかり目に持ってきてAF-ONボタンを押しても(私は常にシャッターボタン半押しAFはOFFにしている)、実は目の瞳孔ではなく、まつ毛に合焦しているといった事態も発生する。被写界深度が浅く、倍率の高い超望遠レンズをなかば標準として用いる動物写真の世界でこの問題は特に重大だ。
それではこのピントのズレをどうすれば減らせるのか?まずは、当然ながらしっかりとピントの確認ができる環境を整えねばならない。具体的にはファインダーの中を見やすくする必要がある。私はアイピースにゴム製のアイカップを取り付けて、横から余計な光が入り込まないようにしている。
こうすることでピントのヤマがくっきり見えるようになる。もしピントのズレが確認できた場合、ここからはマニュアルフォーカスを使う。別にAFレンズをマニュアルに切り替えるという意味ではない。最近の超音波モーター搭載型AFレンズの大半は、オートフォーカス中でもピントリングを回せば即座にマニュアルで微調整できる機能が付いている。これは大変便利で、AFでおおまかなピント合わせをした後、より厳密に修正を加えることができるのだ。
ただし、マニュアルでのピント修正を素早く正確に行うには、ボディの性能もそれなりのものでなければならない。というのも、カメラによってはどんなに頑張ってもピントのヤマがあと一歩のところで見えなかったりするのだ。ニコンの場合、DXフォーマットのボディが特にそう。理由はとにかくファインダーが小さいことだ。中にはマニュアルフォーカス自体を想定していないのではないかと思うくらい見づらいものも存在する。やはりファインダーは大きいに越したことはないし、フォーカシングスクリーンもしっかりしたものである必要がある。この点では明らかにFXフォーマット(フルサイズ)のデジタル一眼レフカメラに軍配があがる。
最近のカメラは高画素化が進み、それに対応する形で解像感の高い新しいレンズが多く発売されている。そして動物の目に写り込む風景までをも描写できてしまうようになった。画質向上は大いに喜ばしいのだが、同時にわずかなピントのズレも以前より目立つようになり、一層の注意が必要になってきたと感じる。現在は「瞳認識AF」機能を持ったカメラも登場しているが、野生動物を撮る以上、少なくとも現時点ではオートフォーカスのみに頼るわけにはいかないのが実状だ。
山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら
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