Javaの父が語る、Java開発ツールの課題とこれからInterview

Sunの推進するJava開発ツールはこれまで振るわなかったが、CreatorとNetBeans 3.6でその状況は変わるとSunのジェームズ・ゴスリング氏は主張する。ただ、その前に立ちはだかるのは「認識」の問題だ。(IDG)

» 2004年07月06日 17時37分 公開
[IDG Japan]
IDG

 Javaの父、ジェームズ・ゴスリング氏は現在、Sun Microsystemsの開発者向け製品部門でCTO(最高技術責任者)を務めている。Computerworldのインタビューに応じた同氏は、Sun主催の大規模イベントJavaOneの内容を踏まえ、商用ツール分野でSunが抱える課題について言及した。

――Sunは今年のJavaOneでツールに力点を置いていますが、Sunのツールは開発者にほとんど使われていません。この点をどう考えていますか?

ジェームズ・ゴスリング氏 Sunのツールは最近まで、本来あるべきよりも興味深いものではなかったと思います。NetBeans 3.6でようやく、とても軽快な動作と優れた機能を備えるリリースになりました。それまでは、希望していたほどにはこのツールを推進することができずにいました。NetBeansは4年間ほどオープンソースプロジェクトとして公開されていましたが、確かな推進力を得たのは1年半前のことでした。NetBeansのダウンロード件数は本当にかなりのものです。そしてCreatorは、幅広い層を狙って立ち上げた初めての製品です。コード作成の内部のことまで考えるのに時間を割きたくないというVisual Basic開発者を狙っています。こうした開発者は、非常に短時間でプログラム構築に入れるようになる必要があるのです。

――CreatorとNetBeans 3.6で、状況は変わり始めると?

ゴスリング氏 ええ。NetBeans 4.0も間もなく準備が整うでしょう。すてきなツールですよ。

――NetBeans新版のどこが、そんなにすごいんですか?

ゴスリング氏 ユーザー体験の改善に力を入れ、マニア的なところを減らし、ワークフローをずっとスムーズにしました。活発に動くように、パフォーマンスにはずいぶんと労力を払いました。NetBeansチームは、純粋に学術的な面に力を注ぎがちでした。彼らにもう少々ブルーカラー的になってもらうのには骨が折れましたが、実際にその考えを分かってもらえました。今では、細部まで磨き上げる作業にかなり労力を割いています。

――今後のJava Studio Creatorに向けた準備はどうなっていますか?

ゴスリング氏 (現行版では)コンポーネントをドラッグ&ドロップして、見事なアプリケーションを構築できます。今後のバージョンでは、この路線を拡大します。例えば次のバージョンでは、アウトプットとしてHTMLを生成することに制限されず、またリッチクライアントを構築できるようになるでしょう。年内にすべて実装できればと考えていましたが、準備が整っているとはまったく言えません。

――いつごろ準備が整いますか?

ゴスリング氏 明言は難しいです。来年に期待できるのは確かです。

――Sunが新たにツールに力を入れるようになった要因は何ですか? ジョナサン・シュワルツ氏がツール事業の確立を求めたのでしょうか?

ゴスリング氏 さまざまな要因があります。幾つかはジョナサンと関係があるものです。つまり、ジョナサンがツール部門全体に新風を吹き込んできたわけです。その一端として、5〜6年前を思い返してもらうと、当社は全般的にあらゆるタイプの業務を処理する興味深いツールを手がける社外ISVによるコミュニティーを育成しようとしていました。また当時は、ツールでやっていく企業が存在するという幻想がありました。しかし、ツール事業の現実を見ると、経済モデルはひどいものです。

 Microsoftが自社ツールの料金をかなり低く設定したため、ツール事業を柱にするISVが実際に生き残るのはほとんど不可能です。そのため、ツール市場では驚くほどに選別が進んできています。つまり、基本的に1つしか残らないんです。Borlandだけでしょう。ツール市場は非常に不安定です。開発者コミュニティーはこの分野に、カフェラテほどのお金もかけないのです。

――EclipseやNetBeansの利用拡大は、ツール市場に大きな影響をもたらしていないのですか?

ゴスリング氏 われわれはEclipseプロジェクトが始まる1年前にNetBeansをオープンソース化しました。(IBMからは)どうしてEclipseに参加しないのかとずっと聞かれていますが、それは(彼らに)どうして君たちはNetBeansに加わらなかったのか、と尋ねるようなものです。

――Eclipseの方が、気運が盛り上がっているように思われます。

ゴスリング氏 IBMは、かなり目覚ましい水準でEclipseのマーケティングに膨大な額を投資しています。ただ技術面では、製品の品質を見ていただければ、恐らく実際にはわれわれの方が現在のEclipseよりも優れ、完全だとお分かりいただけると信じています。

――NetBeansのどのバージョンでしょう? 一部の開発者は、NetBeansが遅く、魅力的ではないと言っていますが。

ゴスリング氏 実際のところ、そう言うユーザーの大半は、ここ最近のNetBeansのバージョンを試したことがないのです。2年前のNetBeansを見ると、本当にパフォーマンスの問題が深刻でした。しかし現在のNetBeansを見れば、劇的に良くなっています。つまり、日々進歩しているのです。

――つまり、問題の大半は(NetBeansに対する)認識にあると?

ゴスリング氏 目下、一番の問題は認識です。この問題への対処にかなり力を入れています。

――ですが、多くのユーザーが無料ツールで十分だと考えているような場合、どのように利益を上げるのですか?

ゴスリング氏 実際にユーザーがお金を払っている市場があります。それは大抵、より専門化されたツールです。NetBeansの設計のやり方は、ツールというよりもツール環境として作っています。われわれがリリースしているより高レベルのツールはすべて、そうした環境のプラグインとして構築されています。そしてCreatorは実際のところ、NetBeansの延長線上にあるのです。Java Studio EnterpriseもNetBeansの拡張です。モビリティスタックもNetBeansの拡張なのです。われわれがこれまで目にしてきたものは非常に有望で、これを実際に存続力のあるビジネスに変えられます。

――ツールで多額の金を集めるのがあなたの職務なのですか?

ゴスリング氏 われわれにとっての本当の目標は、開発を通してソフトの生態系を可能な限り健全にすることです。あまりお金に積極的になる必要はありません。ですがあまりお金に消極的になってはいけません。こうしたツールは膨大な量に上ります。これらは素晴らしい技術の取り組みです。ガレージにスタッフが3人、という程度のツール企業はたくさんあり、ツールの分野ではこうした小規模なチームと張り合うことはできません。

――SunはJavaの発明者であるにもかかわらず、アプリケーションサーバと商用ツールでの市場シェアは今でも下位にとどまっています。

ゴスリング氏 今挙がったのは、これまで問題に見舞われていた分野です。アプリケーションサーバはとても良くなっています。NetBeansの最近の市場シェアデータは大幅に改善されています。われわれにとって、アプリケーションサーバは(コメディアンの)マルクス兄弟の喜劇みたいなものです。この時代、企業を買収するともれなく新たなアプリケーションサーバが付いてきました。そして大きな政治的混乱が起きました。われわれは文字通り、6つ(のアプリケーションサーバを)持っていたのです。

――混乱していたのですか?

ゴスリング氏 ええ、大混乱でした。

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