企業改革とITシステムDellEnterpriseShowcaseレポート(2/2 ページ)

» 2004年12月09日 11時53分 公開
[大河原克行,ITmedia]
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 春待ち症候群の姿勢のままだと、コストカットで食いつなぎ、ある一定期間だけじっと我慢すればいいという発想になりがちだ。「春はこない」ということを前提に、今、何をすべきかを考えることが経営者には必要だ。

 冨山氏は、経営再建支援の判断要素のひとつとして、過剰債務はあまり大きな要素にならないというが、その一方で、事業、経営、そして、ITという3つのポイントこそが重要な要素だとする。

何のためのシステムか経営者を考えるべき

 特に、ITは重要なポイントのひとつだと言い切る。「困窮企業の場合、情報システムらしきものは使っているが、経営層にリアルタイムで必要な情報が伝わっているという状況にはなっていない。売り上げや利益の情報はもとより、お金の出入りまで把握できていないから、いつの間にか、お金が出ていってしまうといったことも実際に起きている。なんのための情報システムかを理解していない経営者が多い」と危惧する。

 困窮企業の多くに共通化しているのは、情報システム部門が経営や現場とは別個の組織として捉えられ、ITそのものや、IT部門をブラックボックス化していることだという。その結果、経営層にデータがあがってきても経営者自身がその情報を詳しく見ない、あるいは営業の現場などに情報が伝わらないという事態を招いている。また、情報システム部門がこれだけの予算が欲しいといえば、詳しく検証をしないまま予算を計上してしまう企業もある。

 その一方で、IT投資というと数億円単位の投資規模が必要だと勘違いしている経営者も少なくない。そのため、二の足を踏んでしまい、その企業にとって本来必要な規模の投資が行われていないこともある。

 さらに冨山氏はこんな指摘もする。

 「今やITを活用しなければ、自動車の前照灯をつけずに高速運転しているようなものであるにもかかわらず、明るい景色が見えていると勘違いしている経営者がもいる。」

 人間には見たいものを見て、見たくないものは見ないという習性がある。それが経営に現れるたときにこういうことが起こるという。これもIT投資が効果的な成果に結びついていない例だと言えるだろう。

 「こうした企業はわずかだと思う人がいるかもしれないが、私が産業再生機構で出会った企業はほとんどがこうだった。予備軍は多い」と同氏は言い切る。IT業界内ではITとビジネスの一体化が叫ばれているが、それを実践している企業は数少ないのだ。

 もうひとつ、冨山氏が指摘するのが、日本の経営システムはすべてが連続性を前提に構築されており、不連続性は一切、視野に入れられていない点だ。これはITシステムも同様で、産業再生機構で事業を分離する際に、情報システムを切り出しずらく、事業再編に遅れを生じさせる可能性があるという。

 当然、こうした究極ともいえる企業の再生現場の場面に至らなくとも、変化の激しいビジネスに情報システムが追いつかないという状況は、世の中の変化に企業が追いつかないことにも直結する。

 「こういう企業こそ、ほしい情報がほしい部門に的確に伝わっていない」という。これは、ITとIT部門が企業改革を妨げてしまうというあってはならないケースだと言える。

アルマゲドンアプローチで考える

 冨山氏は、アルマゲドンアプローチと呼ばれる手法を情報システム部門にも当てはめてみるべきだと提言する。アルマゲドンアプローチとは、「あと10日間しか生きられないといった場合に、あなたはなにをやるか」という極限を前提とした発想法である。

 「企業が生きるか死ぬかという状況に立たされたときに、どんな情報が必要なのか。そして、その情報が的確に経営層に届くようになっているのかを検証してみるべきだ」という。このアプローチの結果として分かるのは、多くの企業が、必要のない情報を得ているだけという事実を知ることか、本当に必要な情報はわずかなものであることを認知することだという。

 さらに、冨山氏は、困窮企業におけるITの重要性について触れる。企業再生支援の取り組みの最初のポイントにITを掲げているという。

 「再生計画を描くときに、企業モデルおよび経営モデルとしては3年スパン、戦略モデル事業は1年で考え、戦術モデルは3カ月で描く。だが、不確定要素や外部要因の影響を受けて、必ずといっていいほど最初に策定した再生計画とおりにはいかない。その時には、潔く謝って、次の手を打つ。しかし、次の手を早く打つには情報が必要だ。だからこそ、情報が的確に入るようにまず整えておく」というのだ。

 企業の成長にITが欠かせないのと同じように、企業の再生にもITは不可欠なのである。講演の最後に冨山氏は、経営者には、経営的マルチリンガルが必要だと切り出した。

 「ITのことは他人任せ、財務のことは他人任せで、自分は、事業のことだけをやればいいという経営者は今や通用しない。ITの言葉を理解し、財務の言葉を理解し、ディシジョンが下せる人材が必要であり、それらを翻訳を通じて理解しているようではマネジメントとして機能しなくなる」と語る。

 経営者にも、ITをブラックボックスと捉えるのではなく、理解できるスキルが必要だと言える。まとめとして、冨山氏は、ITと企業の成長、企業の再生は切れないものであると共に、ITを知る人がトップマネジメントになる必要性を訴えた。

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