PeopleSoftから見た買収劇とOracleの今後の展開(2/2 ページ)

» 2004年12月20日 12時41分 公開
[怒賀新也,ITmedia]
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 PeopleSoftやJ.D.Edwardsの製品を気に入って導入したユーザーが、5年あるいは、エリソン氏の言うところの期限である10年後に、自社システムの再構築を検討したときに、そのままOracleのERPをすんなりと導入するかと言えば疑問が残る。Oracleは、PeopleSoftユーザーがシステムを再構築する際、何らかのメリットを提供すると考えられるが、大企業ユーザーは、ビジネスを支える基盤としてのERPを、コスト効率の観点だけで選択することはない。

 PeopleSoft、旧J.D.Edwardsのユーザー企業は、OracleのERPが利用に耐えるものではないと判断すれば、あっさりとSAPを選択するかもしれない。そのため、Oracleには、PeopleSoftとJ.D.Edwardsの顧客企業をつなぎ止めて置くだけの製品力の強化が迫られる。

 一方、SAPは、基盤となるR/3の導入が幅広い業界で世界的に一巡し、次の収益源を確保するべく、プラットフォーム戦略であるNetWeaverを打ち出している。日本に限っても、発表から1年半ほどで既に導入企業が112社(11月の時点)に上った。

 また、NetWeaverを構成する製品の1つとして、SAP以外のアプリケーションや、メインフレームを利用するユーザー企業を取り込むために、非SAP間の連携も可能にするEAI製品「XI 3.0」もリリースした。大きな流れで言えば、SAPは、業種別ソリューションの提供なども含めて、ERPの導入実績を十分に蓄積した上で、次の市場としてプラットフォーム分野に「降りてきた」ことになる。ドイツ企業の特徴なのか、非常に手堅いプロセスを踏んでいることは確かだ。

 一方、Oracleは、データベースでは圧倒的な優位を確立しているが、Oracle E-Business Suite自体の導入実績ではSAPには及ばない。ビジネスとうまく融合して初めて機能するERPにおいて、導入実績が少ないことは、ユーザー企業が製品を選択する際にマイナスの影響を与える。

 Oracle OpenWorld 2004 San Franciscoでは、OracleもSOA対応を示したものの、強調されたのは主にプラットフォーム分野での技術力だった印象が強い。確かに、最新版であるE-Business Suite 11i.10の主要製品であるCustomer Data Hubなど、シングルデータモデルをベースにしたプラットフォーム周りのOracleの技術力は高い。

 だが、Oracleがユーザーにアピールするためには、プラットフォームの技術力だけでなく、具体的な業種別ソリューションの提供など、ユーザーを直視した訴求がもっと必要だ。買収で顧客ベースを拡大したOracleが、既存ユーザーを逃がさないためには、「次はOracleで」とユーザー企業に判断させる説得力を製品に吹き込まなくてはならない。そのためには、エリソン氏も表明している通り、PeopleSoft製品の機能を取り入れることも考えるべきだ。

 たとえば、PeopleSoftの開発環境であるPeopleToolsは、カスタマイズしたプログラムもそのままERPとしての整合性を保つことができる点で、ユーザーから確固たる評価を得ている。実際に、PeopleSoft自身が、1999年にCRMベンダーの米Vantiveを買収し、PeopleSoft 8 CRMを構築したわけだが、買収したアプリケーションをスイートとして既存のERPと統合できたのも、Vantive EnterpriseをPeopleToolsで書き直したからであった。

 また、中堅企業向け製品としてユーザー企業の信頼が厚い旧J.D.Edwardsのアプリケーションを、大企業をターゲットとしたOracleのERPがそのままカバーするには現状ではハードルが高い。

 次のシステム刷新を考えた場合、PeopleSoftと旧J.D.Edwardsの既存顧客はある意味で宙に浮いてしまった。これをSAPに取られたのでは、Oracleにとっては何もならない。

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