ストレージの仮想化、日米の異なる事情

ストレージの仮想化技術が話題だ。各社、アプローチの違いをアピールし合うが、日本企業は仮想化のメリットを受け入れにくいという指摘もある。

» 2005年04月20日 14時17分 公開
[堀哲也,ITmedia]

 ストレージの仮想化技術が注目を集めている。増え続けるストレージの管理を簡素化しなければ。企業のそんなニーズが顕在化してきたからだ。

 ストレージベンダー大手各社はそれぞれのアプローチを提示している。単純化して捉えるなら、ディスクアレイで仮想化するアプローチ、ネットワークで行うもの、そして専用のサーバで行うもの――これら3種類に大別できる。ディスクアレイで仮想化を行おうというアプローチは日立が代表的で、ネットワークで仮想化しようとするのは「ストレージ・ルータ」のEMCが挙げられる。そして、専用サーバによるアプローチは、Network Appliance(NetApp)が採用している。

 各社、これらアプローチの違いをアピールしてしのぎを削る。最近ではIBMがEMCのお膝元ボストンで仮想化製品を発表し、刺激したばかり。ただ、大規模SANを構築してきた米国と異なる日本は、仮想化によるメリットを受け入れにくい現状もあるようだ。

異なる事情

 「エンドユーザー企業にとって、システムの“統一感”が見えていれば、“仮想化”という概念はそれほど必要でなかった」。こう指摘するのは、日本ネットワーク・アプライアンスの鈴木康正社長。「日本では、企業の主要なシステムの構築/運営管理を行うのはシステムインテグレーター。エンドユーザーからすれば、自社システムを構成する各製品の特徴までは見えにくい。インテグレーターが、限られた範囲内で統一化され仮想化したようなシステムの見せ方をしていれば、エンドユーザーにとってはそれで十分だった」と言う。

 同社は3月29日、専用アプライアンスで仮想化するゲートウェイ製品「NetApp Vシリーズ」を発表した。従来まで「gFiler」と呼ばれていた製品のバージョンアップ。「Vシリーズ」の名が示す通り仮想化(Virtualization)をより明確に打ち出した。にもかかわらず、日本ではアピールを控えている。

NetApp Vシリーズ 「gFiler」と変わらぬ筐体の「NetApp Vシリーズ」

 同社は、これまでも日本で仮想化製品を強く売り込んでこなかった経緯がある。ネットアップにとって、ヘテロジニアスなストレージ環境の管理を熱心に試みるパートナーが少なかったという理由もあるが、それ以上に上記のような国内事情によるところが大きかったからだ。

 米国企業は大規模なSAN(Storage Area Network)を構築しており、1社のストレージベンダーですべてを清一に染めるケースは少ない。それだけに、複数社のシステム・デバイスの管理を一元化したいというニーズは非常に強い。対して、日本では、複数のベンダー製品が混在する大規模ストレージシステムを展開している企業はほとんど見られない。米国ほど仮想化技術に対する期待が強くないというのだ。

 仮想化に見出す狙いがコスト削減の一言に尽きるのであれば、管理をアウトソースしてしまおうと考えるところも多い。鈴木氏は「仮想化がすべての企業にとっての美しい解になるとはいいがたい」と話す。

ハイエンド以外は、ヘテロ環境に

 だが、今後はその状況も変わってくるかもしれない。ハイパフォーマンスと高信頼性が要求される基幹のストレージだけが切り分けられ独立し、それ以外の用途ではできるだけ安いストレージ製品を採用しようとする動きがあるからだ。

 「HDDだけでなく、RAIDコントローラもコモディティ化され、ストレージシステムは必ず安くなる。コスト削減を求めるユーザーはベンダーなど関係なしに、安いものを果敢に試していくだろう」。鈴木氏はそんな風に予測する。

 そうなれば、マルチベンダーで構成されるこの領域は仮想化による管理の一元化が大きく力を発揮する。Vシリーズが受け入れられる余地も大きい。ネットアップの製品は、NFS、CIFS、iSCSI、FCP(Fiber Channel Protocol)といった多様なプロトコルをサポートしており、同社の製品を被せれば、管理の一元化だけでなく、性格の異なるアプリケーションに対しても最適な接続が行える柔軟性を併せ持つ。同氏が「マルチプロトコルをサポートした仮想化エンジン」と胸張る部分だ。

 Vシリーズが仮想化機能を提供するということは、アプリケーションとストレージとのインタフェースをVシリーズが担うことを意味する。パフォーマンスが気になるところだが、2005年末にも発表されるOS「Data ONTAP」の新バージョンでは、同社がストレージグリッドの鍵と考えるSpinnaker Networksの技術が大幅に搭載されてくる。仮想化エンジンとなるVシリーズの大規模スケールアウトも可能となり、パフォーマンスの問題も解消されるという。

 「次期OSが搭載されれば、Vシリーズはかなり強力になるはずだ」と鈴木氏。「Data ONTAP 7G」に続く次期OS「DataONTAP NG」は今年中にリリースされる予定だ。

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