中小企業のIT活用の原点はどこにある?情報技術による新しいビジネスシステムの創造(後編)(3/3 ページ)

» 2005年10月11日 08時00分 公開
[小川正博,ITmedia]
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 冷間鍛造用金型市場で30%のシェアをもつ大阪枚方のアカマツフォーシスは高度な技術力を持つ企業であると同時に、いち早く1967年にコンピュータを導入した企業でもある。コンピュータ導入の初期には、原価管理や日次決算とともに工程進捗状況の把握によって、納期問い合わせに対する迅速な応答で顧客の信頼を確保する、といった活用法が中心であった。

 その後、自社技術で独自のCAD/CAMソフトを開発する。それで社内の生産性を向上させただけではない。次に、そのCAD/CAMを営業活動に活用したのである。今日では、そのソフトを活用した提案型の事業の仕組みで成果を上げている。

 営業活動では、顧客の生産する製品図面をもとに、CAD/CAMで顧客の保有設備にあわせて工程設計を行い、成型工程プランを顧客に提供する。それも、受注があってから対応するのではなく、技術開発業務を兼任する営業部員が、顧客の設計段階に立ち入って、コスト削減と納期短縮のできる冷間鍛造システムを企画して提供するのである。

 製造用に開発したCAD/CAMを営業活動に持ち込んで、待ちの営業から提案型の営業に転換したのである。さらに、納入した金型がその日から稼動できるように、社内には顧客と同じ冷間鍛造設備を装備して、金型をシステムとして造り込んで提供する。

 こうした顧客サービスを前面に押出した独自のビジネスシステムによって、コスト削減を迫られる自動車や家電関連企業の顧客に対して、冷間鍛造化を誘導して新しい顧客を獲得する。情報技術で営業方法を転換し、顧客ニーズに合わせたビジネスシステムで、さらに販売シェアを高めているのである。

情報技術を基盤とするビジネスシステムの創造

 わが国の中小製造業は技能によって、技術力を支えてきた。今後も技能は必要であるが、情報技術を活用できる技能も形成しなくてはならない。企業は最新の技術で業務を革新していく存在でもあるが、そこでは情報技術を抜きにしては語ることができない時代になっている。そして、企業を革新するには何らかのインパクトが必要だが、今日では、情報技術がその役割を果すようになってきている。加えて、グローバル化の進展のなかで、情報技術が今後ますます大きな力を持つようになるだろう。

図4 情報技術活用の発展

 情報技術によって、他社にはない何らかの強さを持つ経営を構築する。このとき、情報技術を核としながらビジネスシステムを革新し、また創造していくことが、変革期の今日、中小企業の課題である。過去の技術、過去のビジネスシステムに拘泥していると、顧客には新しい価値を提供できない。新しい価値を創出するには、顧客の求めているニーズを把握する。そして、顧客が求めている価値を創出できるビジネスシステムを、バリューチェーン全体で構築することが必要なのである。

小川正博

札幌大学経営学部教授

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