ロングテール争奪に勝機あり!?[シリーズ特集]ネットテレビは儲かるか 第2回(2/2 ページ)

» 2006年05月10日 08時00分 公開
[アイティセレクト編集部,アイティセレクト]
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 TVバンク立ち上げの会見で、ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏は「視聴者数4000万人を早期に達成する」と力強く語った。羽入氏によると、「Yahoo! JAPAN」の1カ月の利用者数が現在、4200万人という。つまり、ヤフー利用者すべてに「Yahoo!動画」を見てもらうことを想定しているのである。これについて山根氏は、次のように話す。

 「テキストや画像のコンテンツに対して『Yahoo!テキスト』『Yahoo!画像』が存在しないことを考えると、『Yahoo!動画』として存在しているのは、突出した感じがする。そこで、『Yahoo! JAPAN』としてすべてのサービスに動画が利用できるようにするための策を考えている」

 だとすると、「Yahoo!動画」は、それをわざわざ見に来る人を対象にしているのではなく、ヤフーのサービスに触れた人がついでに見るコンテンツだといえなくもない。従って、ほぼ1000万人の視聴者登録数を集める「GyaO」とは、異なるセグメントをターゲットにしているといえそうだ。

市場はすみ分けられている

 こうして見ると、実際には、「Yahoo!動画」をそれ自体で一つのネットテレビだとするのは難しいかもしれない。ただ、サイト内にあるチャンネル配信サイト「TV Bank」は、専門チャンネルがそろうサービスで、24時間番組が流れている。視聴習慣のない人でも見れるように、敷居を低くしているのだ。こうしたところは、テレビと位置付けられる印象を受ける。

 そんな「Yahoo!動画」には、もう一つ特徴的な点として、「投稿動画コンテスト」がある。一般からビデオ投稿してもらい、視聴者による人気投票でコンテストを実施し、上位作品をサイト内で公開するという企画である。ちょうど今週末に第2回コンテストの人気投票が終わり、今月末にその結果が発表される。

 こうした試みについて、山根氏は次のように説明する。

 「CPなどの情報提供元ではなく、一般の人がコンテンツをつくり、それをまた一般の人が選別して、メディアに掲載するというのは、Web2.0のソーシャルメディア化の一つの流れと位置付けられる。良いものをお客様同士で評価して淘汰していくのである」

 米国ではそういったソーシャルビデオ系がブレイクしており、それはいずれ日本にやって来る。そのときのための「ファーストステップとして、今は存在している」(山根氏)のだという。

 そのような投稿作品や検索インデックスにリストされる一般の人の作品は、いわゆるロングテール(※3)と呼ばれる。〔ネット‐ネット型〕の強みは、実はここにあるといわれている。

 「動画にロングテールとヘッドがあるとすると、『GyaO』はヘッドコンテンツを究極的に集めたサイト。『Yahoo!動画』は動画ポータルというコンセプトに基づいているので、ヘッドからロングテールの先の部分まで集めている、あるいはそこにたどり着こうとしているというイメージ。世界中のコンテンツに接触を試みられる唯一のサイトになろうとしている。そういった意味で、『GyaO』とは根本的に発想が違う。今はまだヘッドとテールのかい離は激しいが、次第に『ミッドエリア』みたいなところが出てくるだろう。そのような、テールの部分やテレビ局や映画制作会社がつくるようなコンテンツではないミッドエリアの部分は、動画投稿に集約させていきたいと考えている。ただ、今はそのテールに火が点いておらず、まだヘッドが強い状況だ」(山根氏)

 つまり、仮に〔テレビ‐ネット型〕が従来の強みを生かし、ヘッドの部分で強力なコンテンツを持ち続けるとすれば、〔ネット‐ネット型〕や〔ネット‐テレビ型〕は、ロングテールの部分で強さを発揮することになるというのである。「Yahoo!動画」は今、その部分の礎を築いているといえなくもない。また、山根氏が「ヘッドの集まり」と見ている「GyaO」は、グループ会社に映画配給会社を抱えたり、スタジオを設けたり、あるいは自社制作のコンテンツをそろえるなどしていることから、ヘッドとテールという両極の間に位置する「ミッドエリア」の市場開拓をしているのかもしれない。こうして見ると、ネットテレビの市場は実はすみ分けられているのである。

(※1)インターネット放送、動画配信などさまざま呼び方があるが、通信網を使った動画サービスで、基本的に無料のものを、「ネットテレビ」と称した。ただし、統一はしていない。

(※2)「Yahoo!動画」内のチャンネル配信サイトも、同じく「TV Bank」という。

(※3)簡単に説明すると、ある市場において上位20%を占める人気商品を「ヘッド」というのに対して、残りの80%を指す。図示すると、下図のように恐竜のような形になることから、「ヘッド」「テール」と呼ばれる。売り上げ的には、その上位20%で80%に達するといわれ、リアル店舗などスペースが限られるところでは上位20%にあたる商品以外で在庫を持たないのが鉄則とされた。だが、ネットでは残りの80%にあたる商品もそろえて、100%を目指して売ることができるようになった。その好例が、アマゾン・ドット・コムのビジネスモデルである(全文は「月刊アイティセレクト」6月号に掲載)。

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