オープンソース開発者を雇う前に解決すべき課題マネジャーの教科書(2/2 ページ)

» 2006年06月21日 09時25分 公開
[佐渡秀治,Open Tech Press]
SourceForge.JP Magazine
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プロジェクト活動の保証

 著作権の項で勤務時間内もしくは社内リソースを使用したオープンソースプロジェクト活動を認めるかどうか、といった点について触れたが、実際のところオープンソース開発者を雇い、そのプロジェクトの成果物を利用したビジネスを行っている場合は、それが業務の一環なのかそうでないのか区別がつかない場合がおうおうにして発生するだろう。バグやセキュリティホールが発見されれば修正するべきだし、ユーザーへの対応もあるはずである。また、プロジェクトの性質によっては、競合となる企業との協力を余儀なくされるケースも出てくる。

 このようなことを見越した上で、コードの権利だけでなく企業外のプロジェクトでの活動をどのような行為とどの程度の時間行えるのかといった指針を採用時に示し、その上司が行動を把握できるようにしておく方がよい。それが行われてなければ、雇われた側の開発者からすれば一生懸命働いているという認識であるにもかかわらず、社内ではまったく働いていないという見方が広まるだけになってしまうだろう。これはせっかく雇った開発者の入社後の評価に影響することなので、細かく定めておくに越したことはない。

 この行動の事前の定義と行動把握については、企業の内部統制という意味でも重要かもしれない。これは主観ではあるが、昨今の日本版SOX法をはじめとする企業の内部統制への世の中の動きを漠然と見ていると、きちんとプロジェクトへのかかわりを定義しておかなければ、後で面倒なトラブルの発生に繋がりそうな気がしてならないのである。

 ほかには、プロジェクトの参加にかかわる費用についても考えておくべきかもしれない。オープンソース開発者が企業活動の一環として所属するオープンソースプロジェクトに関連する何らかの活動を行えば、その費用は企業の負担となる。開発行為の場合であれば、研究開発費とするのかあるいは市場販売目的として無形固定資産と扱うのかといったことで償却に違いがでてくる。また、企業がオープンソース開発者を雇う理由には単なるプログラミングなどの能力だけでなく、プロジェクトでの立場を踏まえたビジネス面への影響を考慮する場合もおうおうにしてあると思われるが、そうであれば広告宣伝費としてマーケティング費用から活動の種類によっては出せる費用もあるだろう。

 これらは企業によって事情は異なるだろうが、オープンソースプロジェクトを運営していくにはそれなりに費用がかかるものであり、プロジェクトにかかわりを持つことでビジネスに役立てていこうとするのであればプロジェクトの運営にそれなりの費用をかけることを見越した予算化を行わなければならない。もちろんこの予算化は企業としてそのプロジェクトのどのような面を強化したいのかといったことで項目も金額も異なってくる。また、突発的に会合費などが発生する場合にも備えておいた方がよいが、この場合はマーケティング費用である程度カバーできるようにしておく方がよいだろう。

そもそも何のためにオープンソース開発者?

 一般的に多くのIT企業は社員である開発者の成果をすべて企業に属させ、その成果を販売することで利益を上げている。穿った見方をすればオープンソースプロジェクトに社員にかかわることはその成果の流出と見ることもできるし、外部組織とのコラボレーションによるコスト削減、開発と普及促進、はたまたもっと高尚な言葉を使えばイノベーションの促進と考えることもできる。

 企業がオープンソースのビジネスを進める場合には必ずビジネスモデルを定めているわけだが、その戦略にオープンソースはどのように絡みどのような影響を及ぼすのか企業はよく考える必要がある。さらにそのために採用に踏み切る開発者がいるのであれば、その開発者に対し、その大きな戦略を最初に理解させる必要がある。そうしなければ、開発者は何のために企業に属している意味を見失い、企業から制御が難しい状態となってしまうだろう。

 また、開発者に対しては心のケアも重要である。もともとオープンソースの開発にかかわってきたものであれば大なり小なりそのプロジェクトへの忠誠心というものを持っている。これが企業に属すれば企業への忠誠も必要になり、これがある時にはほんのちょっとしたことであっても板挟み状態が重荷となってしまうだろう。逆に企業内でずっと過ごしてきた開発者にとっても突然オープンソースのコミットを求められるようになると、外部組織とのコミュニケーションに慣れていないために過大なストレスが生じる場合もあるだろう。これを防ぐ意味でも企業には開発者に戦略の意味を理解させ、それを十分に納得させる土壌を作っておくことが重要なのである。

終わりに

 さて、本稿ではオープンソース開発者を雇う前に企業が事前に考えておくべきことを経験も踏まえた上で思いついたままにずらずらと列挙してみた。特にオープンソース開発者という枠に捕われない事項もあると思うし、逆に足りない事項も多いだろう。コメントは歓迎するし、まとまった意見であれば記事として投稿してもらえると嬉しい。

佐渡秀治

OSDNの責任者。担当する職務が年々増えるが、管理する人間が増えないという典型的なしがない管理職。


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