グーグルが最も恐れる相手の手の内グーグルの躍進とマイクロソフトの転身 第3回(2/2 ページ)

» 2006年09月01日 08時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト]
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 こうした巨額の投資を元手に、グーグルなどのようなインターネットサービス型のビジネスモデルへの転換を図り、競合サービスを猛烈にキャッチアップしようとしている。

 現時点で提供されているサービスの一例としては、広告などビジネスへのつながりが期待されるローカル検索分野で、地図・道順案内サービスの「Windows Live Local」がある。

 グーグルやアマゾンが提供する衛星写真や街頭写真を地図上にマッピングしたサービスに対抗して、マイクロソフトは、自動車ドライバーの目線で前方の景色や街並みの写真を見たり、低空飛行する飛行機から撮影した街並みを眺めることができる機能などを備えている。MSN事業への投資の一部は、こうしたデータを実際に自動車や飛行機を使って収集する作業にも充てられているようだ。

 3月には大規模な組織の再編も行われた。Live戦略の中核を担うPSD(プラットフォームズ&サービス部門)では、「Live」の名称を冠した開発や推進を専任とする部門が複数新設され、従来型のソフトウェアプロダクト部門とは一線を画した独立部門として取り組んでいく姿勢を明確にした。

 一連の改革に着手するにあたり会長のゲイツ氏は、最高技術責任者とサービス責任者を兼任するポジションに「ロータスノーツ」の開発者、レイ・オジー氏を抜擢し、会長の直属としている。ゲイツ氏が08年をめどに一線を退くことが発表されたことは記憶に新しい。オジー氏がその後継者としてエンジニアの立場から新しいビジネスを主導する体制は、ある意味でマイクロソフト自身の原点への回帰であり、同時にグーグルがサービスビジネスでありながら、自らをテクノロジー企業と位置付け、ソフトウェア開発を源泉に現在のポジションを確立したことへの対抗でもある。バルマー氏は言う。「グーグルとの争いは長期戦になるだろう」。

破壊的構造変化の波及

 わずか数年間のうちに大躍進を遂げたグーグルの勢いは、ソフトウェア企業のビジネスモデルを根底から揺るがし、絶対的な優位を確立していると信じられてきたマイクロソフトにも、大きな戦略転換を迫ることになった。今後、インターネットサービスをめぐる争いは、グーグル、ヤフー&イーベイ、マイクロソフトの3つの陣営を中心に、さらに激しく繰り広げられていくことになるだろう。

 そして、既に国内外のモバイル関連市場でその動きが始まっているように、この争いはこれまで広く「IT産業」と呼ばれてきた広範な業界――通信キャリア、放送・メディア業界、企業向けITサービス、さらにはテレビなどの家電から電子デバイスに至るまで――を巻き込み、それらを再編していく大きな原動力となることは間違いない。破壊的構造変化は、水面下で着実に進んでいる(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第六回」より。ウェブ用に再編集した)。

なりかわ・やすのり

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


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