昨年夏に本サービスを開始したつくばエクスプレスの無線LANサービスは、現在国内唯一の列車内ブロードバンドサービスだ。ここから移動体通信の「未来」が見えてくる。
連載「再考・ワイヤレスネットワーク」では、本記事を含む以下の記事を掲載しています。
【第1回】わたしがモバイルをしたくない理由
【第2回】なぜ、我が社には無線LANがない?
【第4回】Skype専用携帯電話の「使える度」
【第5回】無線LANの高速化におカネはかからない?
【第6回】夢を先取り!? 移動体インターネットの使える度をチェック(本記事)
筆者は都心から60km離れた場所に自宅兼仕事場がある。最寄り駅から電車に乗り込むと、朝夕のラッシュ時にはグリーン車ですら満席だ。都心までの1時間、ひたすら電車に揺られ続ける。グリーン車の中をのぞいてみると、ノートPCを開いて仕事をしている人の姿をちらほら見かける。多くのユーザーが「列車の中でインターネットに接続できたら……」と思っていることだろう。
現在、列車内ブロードバンドサービスを提供しているのは、秋葉原とつくばとを結ぶ「つくばエクスプレス」だけだ。つくばエクスプレスは2005年8月に開通し、1年間の実証実験を経て2006年8月から商用化にこぎつけた(関連記事)。もちろん、日本で唯一の商用サービスであり、現在は実証実験を含めてほかに類似するサービスは見当たらない。
これまでに、さまざまな事業者が列車内インターネットサービスに向けて取り組んできたが、いまだ実用化されたものはない。これは、需要や収益性などの問題もさることながら、移動体通信の技術的な難しさが背景にある。
列車はかなりの速度で移動し続けるため、基地局(アクセスポイント:以下、AP)を沿線に多数配置する必要がある。独自のワイヤレスシステムを開発/導入すると莫大な費用が掛かり、電波帯利用の法的な制限もあるため、現時点では「Wi-Fi(IEEE 802.11a/b/g/n)」技術を使った方式が主流にならざるを得ない。
ここで問題となるのが「ハンドオーバー」の壁である。高速で移動する列車内から常にインターネットアクセスができるようにするには、沿線のAPを次から次へと切り替え、接続し続けなければならない。
だが、Wi-Fiはそもそも部屋の中で使うことを前提に設計されているため、高速移動通信は難しい。例えば、AP(A)→AP(B)へのハンドオーバーを行う場合、Wi-Fiの仕様では、Bの電波が受信できる地点まで来ても、Aとの接続状態がどんどん悪くなって最後にリンク切れを起こさない限り、BのAPにハンドオーバーしないのだ。これでは、短時間につながったり途切れたり……を繰り返すことになり、とうてい実用にはならない。
つくばエクスプレスのブロードバンドサービスを提供するNTT BP(NTTブロードバンドプラットフォーム)は、この問題を独自の方式で解決した。秋葉原−つくば間65kmにある20の駅、沿線には光ファイバ網が整備され、ホームの両端や沿線の中継局を含め全65のAPをおよそ500m間隔で配置している。これらのAPの電波をいったん列車のアンテナで受信し、それを車内の無線LAN設備で再配信している。
つまり、列車内の「公衆無線LANサービスエリア」と、「列車−外界」間のワイヤレス通信を組み合わせたシステムであり、独自の技術で短時間でハンドオーバーし、エリア移動時でも無線LANセッションが維持できるようになっているのだ。
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