ともかく、リモートからVPN経由でLAN内のリソースが利用できるという恩恵は大きい。この実効速度であれば、一般的なグループウェアやMicrosoft Exchangeの利用なども問題なく行えるはずだ。また、自宅にVPNルータを設置すれば、家庭内のネットワーク対応DVDレコーダにアクセスして録画予約や番組のストリーミング視聴などもできる。ビジネスでもプライベートでもフル活用できそうだ。
ただし、上りのリンクアップスピードは384Kbpsしかなく、下りに比べると数段遅い。例えば実効速度が200Kbpsの場合、10MbpsのファイルをVPN経由でオフィスにアップロードしようとすると、所要時間は12分程度かかってしまう。この点には留意する必要がありそうだ。
また、本サービスはダイヤルアップ接続であるため、ノートPCがインターネットに直結する。クライアントベースのセキュリティソフトによる、不正アクセスやワーム対策は必須だ。
このように、EMブロードバンドサービスの速度面でのアドバンテージは非常に大きく、社内リソースの現実的な活用面で、モバイルユースの可能性を格段に広げるものと言えよう。外出がちな営業担当者が直行直帰体制でさらにビジネスの枠を広げるといったワークフローも創出できるはずだ。セットアップも非常に簡単で、管理部門の社員教育もほぼ不要。ビジネスモバイルの有力候補であり、うまく効果を引き出せれば、月額5980円というランニングコストは決して高くはない。
また、列車やクルマなど移動中でも使えるのも大きなメリットである。HSDPAの基地局がカバーするエリアは半径800m〜2kmと携帯電話と同等で、ビルの陰など電波が届かない「エアポケット」やトンネル内では通信が途切れるものの、電波の状況が良好であれば何ら問題なく通信できる。朝の通勤電車の中でメールをチェックしたり、仕事に必要な資料をそろえるといった使い方も可能だ。
筆者にとっても、EMモバイルブロードバンドサービスはワークスタイルを大きく変えた。これまでは、取材や打ち合わせが多数重なると、オフィスで仕事ができる時間がほとんどなくなってしまう。帰宅が深夜ともなると、寝る時間を削って原稿を書いていたものだ。だが、EMモバイルブロードバンドがあれば、移動中や待機時間などちょっとした時間を有効活用して、必要な作業を都度行えるので、仕事が効率的に進められる。このサービスは筆者の睡眠時間を作り出す、まさに「救世主」である。
だが、いいことずくめではない。最も問題となるのは、サービスエリア。2007年7月の時点では、最もサービスエリアが広いのは関東(主に国道16号線円内)、関西圏(大阪/京都/神戸/奈良の都市部)で、このエリア内であれば、ほぼ問題なく利用できる。それ以外のエリアについては、名古屋を中心とする東海エリアや広島、北九州/福岡、仙台、札幌の主要地域での提供となっている。
このように、現状ではカバーエリア面では全国をほぼ網羅するPHSデータ通信の方が有利であり、エリア外の地方都市を移動することの多いユーザーは、エリア拡大をまだまだ待たなければならない。もっとも、イー・モバイルでは全国の主要都市部に向けてエリアを拡大しており、今後の全国展開を切に期待したい。
【注記】 今回紹介したD01HWは、旧タイプのMacintoshおよび、一部のWindows OS搭載PCで利用できないという問題が確認されている。修正版のソフトウェアは同社ホームページより入手可能。本件の問い合わせ先窓口は「イー・モバイル カスタマーセンター」、またはフリーダイヤル0120-736-157まで。
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