設立4年で増収に転じる東芝ソリューション、それを支える中国オフショア成功の秘訣とは(3/3 ページ)

» 2007年10月04日 12時00分 公開
[松浦義幹,ITmedia]
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信頼の次の課題は人材確保

 東芝ソリューションとNeusoftのオフショアリングについて「信頼関係はすでに築き上げた。次はこの信頼を基に、いかにスキルの向上、さらには品質向上/生産性向上につなげるか」と両社の首脳陣は共通の見解を示すが、そのための課題は何か。それは「人材の確保」だという。

 最近の中国においてはITエンジニアの急激な給与水準の上昇と離職率の上昇が顕著になっている。前者はオフショア開発におけるコスト面での競争力を弱体化させ、後者は開発ノウハウなどが蓄積されずに外部に流出するというマイナス面をもたらす。とくに大連は、600社以上の多国籍企業が急速に流れ込んできたため、人材の流動性が高く、離職率は15%に達しているという。

 東芝ソリューション梶川社長からも手厳しい注文が飛ぶ。「Neusoftへの要望はただ一つ。当社の開発ノウハウを持った人材を絶対に辞めさせるな」。恩地取締役も「オフショアの難しさは過去の実績やノウハウをどう蓄積できるかにある。Neusoftの離職率は中国平均と比べると低い方だが、それでもキーマンレベルの離脱も少なくはない。また、人材育成という点ではプロジェクトマネジメントの能力向上に注力してほしい。そうすればもっと大きな案件もアウトソーシングできる。とくにキーマンの下にいる現場マネジャークラスでの育成が重要」と指摘する。

 これらの声に対するNeusoftの答えは、さらなる人材開発とオフショア業務の標準化だ。「端的に言えば、合理的な人件費で優れた人材を確保していく。中国ではまだ珍しいストックオプション制度、モチベーションを高めるプロジェクト制度、快適なオフィス環境、正当な人事評価制度、充実したトレーニング制度など、あらゆる人材開発策を展開する」と劉会長。Neusoftは東北大学が母体となっているだけに、傘下には2万人以上の学生が在籍するNeusoft情報学院も擁している。中国の大学ではトップクラスのIT教育設備を持つなど、ここから輩出されるエンジニアの卵たちも同社の強みだ。

業務の標準化がさらなる市場拡大へ

 人材開発に加え、オフショア業務の標準化を強調するのは張総経理。「キーマンの持つノウハウを会社の共有資産にする取り組みにも注力している。これにより、品質を下げずに、さらなるコストダウンにも対応できる」

 ちなみに、オフショア業務の標準化は、東芝ソリューションの要望に応えるだけでなく、Neusoftの戦略とも合致する。現在、Neusoftグループのオフショア開発は業務系アプリケーションの開発が6割、組み込み系アプリケーションの開発が4割という比率だが、今後は組み込み系が大きく伸びると見ており、早い時期に比率は逆転すると予測している。その際、アプリケーションレイヤでの開発であれば、業務系のノウハウが組み込み系でも転用できると見ているからだ。「中国はもともと世界の製造工場だけに、組み込み系オフショアではとくに強みを発揮できるはず」(張総経理)

 会社設立5年目に突入した東芝ソリューションは、今後も東芝グループの一員としての立場からビジネスを展望する。「グループ内に目を向ければ、まだまだそのすべてのIT需要を受注しているわけではないため、さらにそのシェアを伸ばしていく。グループ外に目を転じれば、東芝グループの売上が拡大するためにいかにシステムインテグレーションの側面から貢献していくか。そのための課題は業種ノウハウの蓄積であり、そのノウハウやタレントを持った人材を確保していくことが焦眉の課題」と梶川社長。

 一方、その東芝ソリューションが今後もさらに発注量を拡大させるというNeusoftは、短期的には東芝ソリューション以外の東芝グループ企業にも取引先を拡大したいとし、長期的には中国国内のIT需要も見据えながらソフト開発企業としての実力に磨きをかけるという。「日本で起きたことは必ず遅れて中国にやってくる。グローバル企業の進出とそれに伴うIT需要の高まり。さらに大規模なインフラベースのIT化。日本企業のノウハウが必ず役に立つ」(劉会長)。まさに、中国企業ならではのしたたかさも垣間見えてくる。

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