第16回 オープンソースのマーケティングまつもとゆきひろのハッカーズライフ(2/2 ページ)

» 2008年07月01日 00時00分 公開
[Yukihiro“Matz”Matsumoto,ITmedia]
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持続への解決策

 1つには開発者の生活の安定でしょう。OSS開発にかまけていても生活に不安がなければ、心配することなく開発に没頭できます。特に経済的な側面で心配のないことが重要です。しかし、親の遺産を受け継ぐような運の良い話はめったにありませんし、ビジネス的に成功してお金持ちになった人は、今度はビジネスに対する責任からOSS開発どころではない人の方が多そうです。結局、これはあまり一般的に有効な方法ではなさそうですね。

 もう1つの方法がマーケティングの利用です。商品ではないので「広報」と呼んだ方が良いのかもしれません。オープンソースは商品ではありませんから、売れなければならないというプレッシャーはありませんし、単純に考えればユーザーがどれほど増えても関係ないと思えます。しかし、ある程度以上のユーザーを獲得できれば、開発モチベーションの観点からも、コミュニティー形成の観点からも、大変有利です。また、LinuxやRubyのようにスポンサーによる支援*を受けるためには、そのプロジェクトが技術的に優れていることは当然として、「どれだけユーザーがいて、どれだけの影響力があるか」が重要になります。

マーケティング手法

 近年、OSS分野のマーケティングにおける成功例としては、Ruby on Rails*(以下Rails)が挙げられるでしょう。RailsはWebアプリケーションフレームワークとして優れている点はもちろんですが、「Javaの10倍の生産性」という分かりやすいキャッチフレーズや「わずか10分でブログソフトを実装」という人目を引くビデオによって注目されました。「分かる人だけ分かれば良い」というようなテキストオンリーの無愛想なドキュメントが横行するOSS業界にあって、このアプローチは特異だったように思えます。

 具体的には、

  • 何が達成できるのか、分かりやすい表現
  • 特にビジュアルな表現

が重要のようです。Rubyのような言語はこれが苦手なので、ずっと困っていました。言語はプログラムを書けば原理的には何でもできるからです。差別化も難しいですし。しかし、Railsの成功のおかげで「RubyではRailsが使えます」といえるようになりました。最近、Rubyが注目されている原因*の1つはRailsでしょう。ありがたいことです。

 これからはオープンソース分野においても、見栄えや広報などマーケティング的側面がますます重要視されるのかもしれません。

このページで出てきた専門用語

スポンサーによる支援

CMっぽくなるが、「ネットワーク応用通信研究所はRubyの開発を支援しています」。

Ruby on Rails

Webアプリケーションフレームワーク。Rubyによる動的プログラムを活用した生産性に定評がある。

Rubyが注目されている原因

もう1つの原因は「開発者のヒゲ」ではないかと邪推している。一説によると、開発者がヒゲを生やしている言語は成功するらしい


本記事は、オープンソースマガジン2006年7月号「まつもとゆきひろのハッカーズライフ」を再構成したものです。


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