GoogleはGmailをクラウドから解放すべしMicrosoftのシェアを奪うには

Gmailは個人用メーラーとしては申し分ないが、便利になる「Exchange Server 2010」から企業ユーザーを奪うのは難しいかもしれない。

» 2009年06月15日 15時08分 公開
[Jason Brooks,eWEEK]
eWEEK

 これまで試したさまざまな電子メールクライアント(Web、デスクトップ、モバイルベースのすべてを含む)の中で最もわたしの気に入ったのは、文句なしにGoogleのGmailだ。メッセージの分類やアーカイビングといったGmailのインタフェース要素が、わたしの仕事のやり方に合っているのに加え、予定表、IM(インスタントメッセージング)、ワープロ、表計算などのアプリケーションとGmailとの連係機能も大いに評価できる。

 ただ、いくらGmailが気に入ったからといって、従来型のアプリケーションからクラウドベースのアプリケーションにくら替えするには、大きな困難も伴う。数多くの優れたユーザーインタフェース機能を備えているとしても、Gmailのようなアプリケーションを採用することは、数々の潜在的トラブルやボトルネックをユーザーの電子メール環境に招き入れることになるからだ。

 まず、Webブラウザがアプリケーション運用環境としての役割までも果たさなければならなくなる。インターネットとの接続もかつてなく重要になる。また、クラウドアプリケーションを継続的に利用できるかどうかは、プロバイダーの運用能力に大きく依存することになる。

 わたしの場合、Gearsを利用したオフラインGmailのサポートIMAPという安全弁、Gmailの携帯端末同期化機能、Mozillaの非常に便利な個別サイト対応型ブラウザ技術を組み合わせることによって、Gmailの“クラウドギャップ”に十分対処できているため、メッセージニーズを満たすためにGoogleを利用していることで何の不都合も感じていない。

 問題は、電子メールと予定表の個人ユーザーとしてのわたしのニーズを十分に満足させるものであっても、多くの企業のニーズを満たすには必ずしも十分ではないということだ。Googleは現在、企業向けのソフトウェアの開発に取り組んでいるということだが。

 Googleのエンタープライズ部門のデイブ・ジルアード社長は各地を飛び回り――数週間前はニューヨークで開かれたBank of America主催の「Technology Conference」で、また最近ではサンフランシスコで開催されたプレスイベントにおいて――同社では上述のような企業市場参入“障壁”を打破しつつあると説明するとともに、OutlookとGmailの同期化などの新機能を紹介している。

 恐らくWeb界の巨人Googleにとって最も困難な課題は、“Googleは信頼できるのか”という疑念をぬぐい去ることだ。すなわち、「Googleの管理下に置いた自社のデータは、現在および将来ともにセキュアであり、確実にアクセスできるのか」という疑念に対処しなければならないのだ。Bank of Americaのイベントでジルアード氏は、企業は自社のデータセンターよりもGoogleのデータセンターに自社のデータを置く方が安全であることを顧客に納得させる自信があるようだった。

 多くの場合、その通りかもしれない。だがクラウドというコンセプトを全面的に受け入れようとも、あるいはGoogleの管理能力をどれほど信頼していようとも、使用中のアプリケーションを全面的に断念しなくてもアプリケーションプロバイダーを乗り換えることができるという選択肢は捨て難い。

 Googleがシェアを奪おうとしている相手の企業、つまりMicrosoftの場合はどうだろうか。Exchange Serverでは、各種のオンプレミス(社内保有)バージョンに加え、Microsoftおよびサードパーティーベンダー(Rackspaceなど)によるホステッドサービスバージョンが用意されている。

 また「Exchange Server 2010」では、非Microsoft WebブラウザのユーザーはOutlook Web Accessを通じてしかExchangeのリソースを利用できなかったという不便が解消される。

 Googleがこれと同様の(あるいはさらに幅広い)プロバイダーと配備の多様性を提供するためには、GmailおよびそのほかのGoogleアプリを同社のデータセンターから解き放つ必要があるだろう。しかしこれはシステムの複雑化を招き、Googleが管理できなくなる恐れもある。

 GoogleがTwitterとよく似た「Jaiku」サービスのオープンソース化を決めたことは、Gmailの今後の方向性を指し示している。しかしわたしの知る限りでは、Googleが自社のApp Engineプラットフォームに移植したオープンソースJaikuは、相変わらずGoogleのデータセンターに結び付けられている。

 Gmailは“無料という意味のフリー”の電子メール製品の王者として君臨するかもしれないが、単一のサービスプロバイダーに縛られないことを望む企業の場合、“自由という意味のフリー”であるExchangeが最善の選択肢だと言えそうだ。

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