音楽プレーヤーから多機能デバイスへと進化したiPod。「汎用デバイスは専用デバイスに勝つ」というジョブズ氏の言葉通り、1つの機能しかないデバイスは敗北するかもしれない。
あなたが1つのメイン機能しかないデバイスを最後に買ったのはいつだろうか?
Amazonの電子書籍リーダー「Kindle」、デジタルビデオカメラ「Flip」、ソニーなどの企業が販売する電子書籍リーダーやデジタル音楽プレーヤーの購入者なら、「昨日」と答えるかもしれない。だがAppleが9月9日のサンフランシスコのイベントで示したように、1つの機能しかないデバイスを消費者が買う時代は終わりに近づいている可能性が高い。
2001年に初代iPod――直観的なフォームファクターだが、iPod nanoやtouchに比べると格好悪く見える――がデビューしてからしばらくの間、Appleのデジタルメディアプレーヤーは1つの機能だけを持っていた。音楽を再生するという機能だ。
その後Appleは、iPodに機能を追加するようになった。ビデオ、ゲーム、そして――iPod touchのリリースにより――App Storeからアプリをダウンロードできるようになった。9月9日のイベントで発表された新しいiPod nanoはビデオ撮影ができる。この機能は確かに、Flipのようなデバイスにとって、直接的な競争上の脅威になるだろう。Flipは、低価格でデジタルビデオを撮影できるという、1つの機能に優れている点を売り込んでいた。
もちろん、AppleはiPhoneもリリースしている。音楽を聴いたり、ゲームをプレイしたりできる上に、電話もかけられるデバイスだ。Research In Motion(RIM)のBlackBerryやPalm Pre、Pixiなどほかのスマートフォンも同様に、1台のデバイスがさまざまな分野にわたってもっと多くのタスクをこなせるようになるべきだという考えを中核としている。
次の段階は、以前からうわさになっている、2010年と予想されているAppleのタブレットPCのリリースとともに始まるかもしれない。うわさによると、このタブレットは7〜10インチのマルチタッチスクリーンを搭載し、iPhone OSかSnow Leopardを搭載するという。Piper Jaffrayのアナリスト、ジーン・マンスター氏は8月7日のリサーチノートで、このデバイスは「そのクラスで最高のWeb、電子メール、メディアソフト」を備え、「Netbookではなくても、Netbookカテゴリーで十分競争していける」と述べている。1台当たり平均600ドルで売られた場合、Appleに最高で年間12億ドルの売上高をもたらすとマンスター氏は述べている。
Appleのスティーブ・ジョブズCEOは9日のNew York Timesの取材に対し、多機能に関する同社の製品戦略をあらためて語っている。
「これからも専用デバイスは存在し続けるだろう」とジョブズ氏は語った。「1つの機能しかないという点にも幾つかのメリットがあるかもしれない。だがわたしは、汎用デバイスが勝利すると思っている。人々はおそらく、専用デバイスに進んでお金を払いたがらないだろうから」
このコメントは、Amazon.comのジェフ・ベゾスCEOにとってニュースになりそうだ。同氏は以前、KindleがAmazonの書籍関連売り上げの35%を占めていると示唆していた。アナリストは、Kindleの2010年の売り上げは12億ドルで、2012年には37億ドルになると予測しているが、Amazonは正確な販売台数や売上高を明らかにしていない。
また、タッチスクリーンとタブレットの市場を模索している可能性があるのはAppleだけではない。DellとIntelも2010年にタッチスクリーンタブレットを投入するべく協力しているといううわさが流れているし、MicrosoftはWindows 7にタッチ機能を加えている。
「Windows Touchとマルチタッチは、自然で直観的なPCの操作方法をユーザーに与える」とWindows Teamブログの7月の投稿には記されている。「Roxio、Corel、Cegidなどの企業はいずれも、自社のアプリケーションをWindows Touchに対応させている」
Appleとほかのメーカーの間でマルチタッチデバイスのエコシステムが生まれ、メディアプレーヤーが次第に多機能化していることで、Kindleのような専用デバイスは締め出される可能性がある。この種の機器がこれからも高い価格で販売され続ければ、その可能性はなおのこと高くなる。
Forresterのアナリスト、サラ・ロットマン・エプス氏は9月1日のリサーチノートで、電子書籍リーダーのマスマーケットへの進出は、価格が下がらなければ難しいかもしれないと述べている。
「ディスプレイ部品のコストが高く、販売台数はまだ多くない。消費者はもっと安い価格を求め、期待している」と同氏は記している。「要するに、電子書籍リーダーの戦略担当者は消費者を教育し、価格を引き下げるための技術革新を起こす必要がある。たとえこの2つの点で成功しても、電子書籍リーダーがMP3プレーヤーのようにマスマーケットデバイスになることはないだろう」
だがもっと大きな問題は、ほかのデバイスの多機能化が進み続ければ、電子書籍リーダー、Flipのようなカメラ、MP3プレーヤーは、市場シェアが大きく落ち込んでしまうかもしれないということだ。
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