次世代のFirefoxがもたらす「Webの民主化」と「Super Power」Focus on People(2/2 ページ)

» 2009年11月25日 00時00分 公開
[june29,ITmedia]
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エイザとクリスが考えるブラウザの未来、Webの未来

クリス・ブリザード クリス・ブリザード氏。はじめてお会いしましたが彼もまた時代のけん引役といえるでしょう

june29 現在、お二方が注目している技術は何ですか?

クリス 3Dグラフィックス規格の「WebGL」は面白いですね。プラグインなしに3Dグラフィクスを扱える。Coolirisのようなものをブラウザ上で実現したい。

エイザ わたしはタイポグラフィです。Firefox 3.6ではWOFF(Web Open Font Format:Web専用の新しいフォントフォーマット)をサポートします。さらに、Firefox 3.7ではフォントの外観をCSSで制御できるようになる予定です。Webページの表現力をもっと豊かにしていきたい。

クリス Firefox 3.6ではタッチデバイスへの対応も進みます。Firefox 3.7では、DOMイベントでタッチを拾えるようになる。これはiPhoneのようなタッチデバイスの普及を見据えてのことです。

june29 デバイスを生かす機能は面白いですね。Firefox 3.5では、デバイスを通じて位置情報にアクセスできるようになりました。Firefox 3.6では加速度センサーAPIが提供されるんですよね。これらの機能により、ユーザーにはどういった体験が提供されるでしょうか。

クリス わたしたちが考えていることもありますが、それを提示して、一方的に押しつけることはしません。むしろ開発者の皆さん、ユーザーの皆さんと一緒に考えていきたいです。

エイザ よくあるデバイスの例として、デジタルカメラはよく話題に上りますね。カメラをUSBで接続して、コピーして、選んで、アップロード……これはとても煩雑です。カメラが接続されたと分かったら、勝手にFlickrにアップロードされてほしいくらいです。

june29 なるほど! Eye-Fiがもたらしているようなユーザー体験に対し、ブラウザ側からのアプローチもあり得るということですね。

Mozillaのプロジェクト体制

june29 それにしても、こうしてお話を聞いている間だけでも、実にたくさんのアイデアに触れています。Mozillaでは、こういった多数のアイデアをどのように取りまとめ、プロジェクトに固め、進めていくのでしょうか。

クリス “Messy”(けっこうごちゃごちゃしています)

エイザ “Long cool shower”(冷たいシャワーを長時間浴びて頭を冷やして考えることも必要です)

june29 (笑)

クリス というのは冗談として、指針はあります。これまで不可能だったことを可能にし、可能だったこともさらに加速させることを常に考えています。

エイザ 去年のインタビューでも話したかもしれませんが、ユーザーが実際に取っている行動にはたくさんのヒントがあると考えています。だから、拡張機能として広く使われているものを、標準機能として取り込む場合もあります。拡張機能はイノベーションの源泉です。Jetpackに力を入れているのも、そこを強化するため。いかに新しい人たちを巻き込んでいけるか、これが重要です。

june29 やはり拡張機能のお話に戻りますね。拡張機能といえば、Google Chromeも拡張機能に対応しています。開発を担当しているのは、Greasemonkeyの作者であるアーロン・ブードマン(Aaron Boodman)だそうですね。そういった背景もあってか「Google Chromeの拡張機能は、Firefoxの拡張機能の良いところ・悪いところを勉強して、上手に作られている」との評判を聞くことがありますが、いかがでしょうか。

エイザ Google Chromeの拡張機能は、Firefoxのそれとは違うものだととらえています。とはいえ、ほかのブラウザで実現された機能が素晴らしいものであれば、Firefoxに取り入れることもあります。ユーザーが望むのであれば当然です。

クリス Google Chromeが拡張機能に対応するのは、ユーザーが拡張機能を必要としていることの証といえます。

エイザ 加えて、Jetpackはより広い層を対象としています。プログラマーだけじゃなく、アーティストやクリエイタにも参加してほしい。内部的には「1つのfeatureを1分以内に作れるように」と考えています。

june29 1つ1つは小さく、それらを組み合わせて、大きな仕事を実現するということでしょうか。

クリス 粗結合した小さなパーツ

june29 UNIXコマンドの文化と同じですね。

クリス このように、幾つか重視していることがあって、その上で、プロジェクトは取捨選択を行っています。

Web世界におけるWebブラウザの役割

june29 Webブラウザの役割について、誤解を恐れながら質問します。HTML5の勧告が現実味を帯びてきて、Webの世界も大きな変化を迎えようとしています。そうして、ブラウザ側にデータを保存するlocalStorageなどによって「標準的に、Webにできること」の範囲が広がっていくと、逆に、Webブラウザの仕事の範囲は狭くなり、HTMLやCSS、JavaScriptを仕様通りに解釈することだけが役割になるのではないかと思います。ここでいま一度、問わせてください。Webブラウザの役割とは何でしょうか。

クリス わたしたちは、Webブラウザを「Web上の個人を表すUser-Agent」として活用できるようにしたい。今はまだ、個人の扱いが成熟していない。

june29 User-Agentとは! ややこしいですが、面白い言い方をしますね(笑)。

クリス 言葉遊びです(笑)

エイザ でもこれは冗談ばかりではないんですよ。例えばOpenIDという認証の仕組みがあって、これはWeb側に認証情報を持たせた仕組みです。しかしわたしたちは、個人の認証はWebブラウザ側の機能として持たせるべきではないかと考えています。OpenID Foundationの役員を務めるクリス・メッシーナと話をしたことがあって、彼もわたしたちの意見に賛同してくれています。

june29 なるほど。ブラウザ側に認証情報があって、相互認証が可能なWebアプリケーションには、自分のブラウザからアクセスすれば「自分として」利用できるということですね。それはユーザー体験としても良さそうです。お二人のお話を聞いていると、いつも「ユーザーの体験をよりよいものにする」ことを念頭に置いてプロダクトをデザインしている印象を受けます。

エイザ ええ。体験のデザインというか、「ユーザーが体験をコントロールできること」が大事だと思っていて、そのようなデザインを行っています。

クリス プロダクトをデザインする上で、すべての人を常にハッピーにすることは、残念ながら不可能です。だから、ユーザーにコントロールを預けます。

おわりに

 エイザとクリス、FirefoxやWebの未来を創るお仕事に従事する2人のお話をたっぷりお聞かせいただきました。わたしは去年に引き続きこのインタビューを担当し、1年前と変わらず貫かれる「コンセプト」「ビジョン」の類と、この1年でそれらの思想がどれだけ具体的なものになったのかという進ちょくと、両方に触れることができました。

 MozillaもFirefoxも、変わろうとしています。変わり続けようとしています。ほかのWebブラウザの動向、Webとユーザーの関係の変化、そして、Webそのものの大変革の中で、Firefoxはどこに向かうのでしょうか。エイザやクリスの頭の中に、未来へと続く完成された地図があるのでしょうか。

 それはきっと違います。彼らはユーザーの参加を望んでいます。参加の入口の1つとして、今回はJetpackを紹介してくれました。ほかにも参加の方法は幾らでもあります。Mozillaの活動に共感を覚える方、Firefoxに物申したいことがある方、Webの未来に想いを馳せてみたい方、ぜひMozilla Labsをのぞいてみてください。扉はいつでも開かれています。

最後は3人で。Firefoxはまだまだ楽しくなりそうです

こぼれ話:WebブラウザとタブのUI

エイザとは1年ぶりに会ったにもかかわらず「ブラウザのタブ」について昨年と似た議論が盛り上がりました。

エイザ タブの利用状況に関する調査を行ったんです。同時に11タブほど開いてFirefoxを使っているユーザーがけっこう多い。まれな例ですが、500タブを開く人もいるんです!

june29 500タブ! それだけ開くと、Firefoxがクラッシュせずにがんばってくれたとしても、望みのタブを探してフォーカスするのも大変でしょうね。よくあるタブのGUIは破たんしてしまう。この1年で、タブのUIに対する考えで変化したことはありますか。

エイザ そうそう、タブといえば、Firefox Developers Conference 2009で会ったPiroさんのTree Style Tabは秀逸だね。自分があれを作れなかったのが悔しい。素晴らしい拡張機能だと思う。

june29 ボクもTree Style Tabには大変お世話になっています。

エイザ Mozilla LabsのConcept Seriesでもタブまわりのアイデアは広く集めていて、“かなりやばい”ものも幾つか出てきています。タブが次に革命を起こしたときに、Webブラウザは次の世代に進むんじゃないかな。


著者紹介:june29

「楽しいWeb」を考える1983年生まれのWebエンジニア。ディスカバリーエンジン「デクワス」を開発・運用中のサイジニア株式会社勤務。好きな言葉は「人間讃歌」。ブログは「準二級.jp」。




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