クラウド時代に向けたEMCの野望Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2010年05月24日 08時05分 公開
[松岡功,ITmedia]
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クラウド市場で存在感増すEMCグループ

 さらに諸星社長はこう続けた。

新製品発表会に臨むEMCジャパンの諸星俊男社長 新製品発表会に臨むEMCジャパンの諸星俊男社長

 「仮想ストレージ環境が実現すれば、プール化されたリソースを有効活用できるようになる。距離を越えてデータやアプリケーションを移動させることもできるようになる。しかもそれぞれのストレージが違うベンダーのものであっても、仮想化された1つのストレージのように扱うことができるようになる」

 そして、EMCの戦略についてこう締めくくった。

 「将来的には、数千キロを越えて数千の仮想マシンとデータの移動が可能になる。例えば、バッチ処理は最も電力コストの少ない場所で行うことができるようになる。24時間、さまざまな地域で再起動なくアプリケーションを継続して使うことも可能になる。仮想ストレージは、これまでの分散データセンターから1つの仮想データセンターへの移行を促すものだ。それはまさしく、物理的な制約から開放されるというクラウド本来の方向性だと確信している」

 こうしてみると、VPLEXは、EMCがクラウド時代に向けて打ち出した同社ならではの戦略といえる。諸星社長の最後のコメントには、EMCこそがクラウド市場を制覇する、との野望すら感じさせられる。

 EMCは、これまでストレージベンダーの最大手という代名詞が定着していた。今もその表現に間違いはないが、一方でこの7年ほどの間に40社を超える企業買収によって、ソフトウェアの売り上げ比率を大幅に上げている。とくに米VMwareや米RSA Securityを買収したことで、EMCの事業領域は大きく広がった。そうした戦略はまさしくクラウド時代をにらんだものだ。

 さらにEMCとVMwareは2009年11月、米Cisco Systemsとともに「VCE(Virtual Computing Environment)連合」を結成し、クラウド事業での協業に踏み出している。加えて、VMwareが最近、米Salesforce.comおよび米Googleとクラウド上でのアプリケーション開発環境をめぐって相次いで提携したことも、EMCグループとして大きな動きといえるだろう。同時にそれは、EMCグループがクラウド市場でますます存在感を増しつつある証左でもある。

 諸星社長は会見でVPLEXのパートナー戦略について、「VCE連合によるパートナーもアラカルトのパートナーもきちんと対応する。特定のITベンダーに偏ることはしない」と語った。しかし、サーバおよびストレージの仮想化で先陣を行くEMCグループと関係を深めたいITベンダーは今後も増えるばかりだろう。

 とくに企業向けのプライベートクラウド市場がこれから本格的に形成されていく中で、EMCグループは一層注目を集める存在になりそうだ。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。




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