もし、Salesforce.comが存在しなかったら?「Cloud force 2010 Japan」

Salesforce.comは10月5日、都内でプライベートイベント「Cloud force 2010 Japan」を開催した。マーク・ベニオフ氏(米Salesforce.com会長兼任CEO)の基調講演は、わたしたちが利用するビジネスソフトウェアのこの10年間の変化を改めて強調したものであった。

» 2010年10月05日 14時34分 公開
[谷古宇浩司,ITmedia]

 ベニオフ氏は言う。10年前、わたしがクラウドコンピューティングの話をしても、耳を傾けてくれる人はほとんどいなかった……。

 この10年間、わたしたちを取り巻くコンピューティング環境は絶え間ない変化の中にあった。ベニオフ氏が言うように、10年前はクラウドコンピューティングという言葉に一般性は乏しかったわけだが、クラウドコンピューティングという概念自体が存在しなかったわけではない。米Hewlett-Packardや米IBMが唱えていた「アダプティブコンピューティング」「ユーティリティコンピューティング」という言葉の裏には、現在のクラウドコンピューティングに通じる概念が存在していた。

 Salesforce.comのビジネス規模は、売上高で年間15億ドルを突破、顧客企業数は全世界で8万2400社を超えている。10年前とは違い、ベニオフ氏の少し滑らかすぎる弁舌を聞きに世界中から人が集まる状況である。同社の成長はクラウドコンピューティング市場の成長でもある。いまや、クラウドコンピューティングは、あらゆる規模の企業をカバーしており、日本では、日本郵便(従業員3万人以上)、ファーストリテイリング(従業員4万5000人以上)といった大企業もSalesforce.comの顧客企業である。

 もし、Salesforce.comが存在しなかったら? ベニオフ氏はわたしたちにこう問いかける。米Nucleus Researchの調査によると、1トランザクションあたりのCO2排出量は、自社運用ソフトなら1.35だが、Googleなら0.2である。Salesforce.comは0.03だ。この調査はクラウドコンピューティングが従来型のソフトウェアと比較して、環境効率が90%以上高いことを示唆しており、また、ベニオフ氏はこの調査結果を引用することで、Salesforce.comがGoogle以上に環境効率が高い、先進的な企業であることを主張している。

 クラウドコンピューティングは「効率性」「経済性」「(ソフトウェアの)民主性」を最新の情報技術で実現する。およそ10年前、人々の口にのぼり始めたクラウドコンピューティングは、10年前と比べて、その姿を大きく変えている。1999年、つまり、10年前のクラウドコンピューティングは、米Amazon.comや米eBay、米Googleという企業の姿をとって、インターネットに新しい風を吹き込んだ。その特徴は「使いやすさ」「コスト効率の良さ」「スピード」を追及したものだった。当時、革新的なビジネスソフトウェアの姿を構想していたベニオフ氏はこんな風に考えたという。「なぜ、ビジネスソフトウェアはAmazon.comのようではないのだろう」。10年経ったいま、彼はこう考えている。「なぜ、ビジネスソフトソフトウェアはFacebookのようではないのだろう」

 現在、クラウドコンピューティングの技術標準はFacebookに“準拠“するようになっている、とベニオフ氏は言う。わたしたちは情報をフィードで取得する。膨大な量の情報が友人や友人の知り合いや、そのまた知り合いから勝手にどんどん流れ込んでくる。個々の情報は、ブックマークされ、あるいはツイートされながら、それぞれのユーザーを中心に構築される膨大な数のソーシャルグラフを通じて、最適な受け手を探す。拡散と収縮を繰り返す情報の流通過程を把握するのは非常に困難だが、もちろん、この課題は近いうちに克服されるだろう。デバイスはiPhoneのようなスマートフォンやiPadに代表されるタブレットPCが主流だ。これらのスマートデバイスのインタフェースは、そのほとんどが指先による「タッチ」に反応する。さらに、最新型のスマートデバイスは自らの位置情報を検出し、ネットを通じて全地球規模で発信する。アプリケーションの開発技術はCoCoa、HTML5が主流となりつつある。マーケットプレイスはもちろんオープンだ。

 コンピューティングモデルは10年サイクルで変遷してきたと考えられている。実際、わたしたちは、情報技術の歴史を論じる際に、10年単位で技術トレンドの推移を観察することに慣れてしまっている。そのことの是非はともかく、2010年から10年前を振り返ると、当時は最新技術だと考えられていたものが陳腐化し、わたしたちを取り巻くコンピューティング環境が様変わりしたことに気づくだろう。ベニオフ氏はCloud force 2010 Japanの基調講演を通じて、Salesforce.comという企業が、時代の波に乗っていることを強調していた。ただし、10年後の2020年、ベニオフ氏が現時点で「時代遅れだ」と断じた企業の位置に同社が堕する可能性はもちろん否定できないのである。

【修正履歴】CoCoaをCocoaに修正しました。(16:05)

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