企業がスマートフォンを最適な形で導入・活用していくには検討すべき課題も多い。スマートフォンの導入に際して考慮すべきポイントをあらためて整理する。
(このコンテンツは日立「Open Middleware Report vol.56」をもとに構成しています)
フィーチャーフォンと呼ばれる、さまざまな機能を付与した携帯電話に代わり、モバイルデバイス市場で一気に主役の座に躍り出てきたのがiPhone、iPad、Androidなどに代表されるスマートフォンやタブレット端末である。2011年夏にはWindows Mobileの進化型であるWindows Phone7も発表され、時間や場所を選ばず幅広い情報にアクセスできるプラットフォームが出揃ってきた。
ビジネス用途のモバイルデバイスとしてスマートフォンやタブレット端末の導入機運が高まる一方で、導入にあたってはいくつかの課題があると、日立製作所 ソフトウェア事業部の水島和憲氏は説明する。
「スマートフォン導入には、3つのステップを設定するとよいでしょう(図)。多くの企業では、今あるシステムをスマートフォンで使うための試験導入からスタートします。これが最初のステップですが、そこではセキュリティと端末管理への十分な対策が必要です。次のステップでは、スマートフォンの小さな画面から効率的にシステムを操るためのユーザビリティの向上が必要となってきます。最後が、スマートフォンならではのメリットを生かすために業務を改革したり、最初からスマートフォンに最適化された業務設計をしたりするステップです。この3つのステップそれぞれで、確実に押さえておくべきポイントと解決策を考える必要があると思います」(水島氏)
初めてスマートフォンを導入する企業は、本当に効果が上がるのか、社員がうまく活用できるのかを見極めるため、パイロット導入からスタートするのが一般的だ。ここで課題となるのがセキュリティだ。
「当然ですが、業務アプリケーションやデータの取り扱いには、スマートフォンにも高いレベルでのセキュリティが必要となります。ID/パスワードのみのリモートアクセスでは、なりすましにより社内へとアクセスされてしまう心配がありますし、紛失・盗難時には不正アクセスや端末内にある顧客連絡先、個人情報などの漏えいリスクも考慮しなければなりません。SDカードなどの外部記憶装置にコピーしたデータの不正持ち出し、ウイルス感染などにも注意する必要があります」(水島氏)
このほかにも、公衆無線LANからの社内アクセス時に通信データを盗聴される危険性も挙げられる。また、今後は個人所有のスマートフォンを業務にも使おうというBYOD(Bring Your Own Device)に向けた動きも活発化することも予想される。そのため多種多様な可搬デバイスを管理するMDM(Mobile Device Management)への対応も必須となってくるだろう。
スマートフォンの導入が本格化すれば、そのリモートアクセス先はオンプレミス環境だけでなく、プライベートクラウドやパブリッククラウドへも広がっていく。そこではクラウドからスマートフォンまでを統括したリソースや資産の一元管理が重要な課題になっていくだろう。
既存の業務アプリケーションをスマートフォンから操作すると、限られたスクリーンサイズと、タッチスクリーンによる操作性の違いで利用者に戸惑いやストレスを与えることになる。
「PC用に作られた業務アプリケーションは、そもそもスマートフォンのように指によるタッチスクリーン操作を前提としていません。そのため、移動時間などの短い空き時間を活用して業務を行うには、やりたいことがすぐに行えるユーザビリティを考慮したユーザーインタフェース(UI)が重要なのです」(水島)
ユーザビリティの高いUI設計をするには、スマートフォン利用ユーザーのタスクと使用状況の把握、ユーザー要件に配慮したプロトタイプ制作などに関する知識が必要だと水島氏は語る。
「UI設計は独特のノウハウが求められる分野です。私どももUIデザインサービスを提供していますが、外部の専門家に任せるのも1つの方法です」
リモートアクセスやBYODに向けたリスク対策、UIの改善などを経ることで、スマートフォンやタブレット端末を業務で活用するための土台は整うことになる。しかし、先端デバイスのポテンシャルをフルに引き出す新業務の開発や、顧客に向けた新たな価値提供などを含めた業務改革への取り組みでは、いまだ明確な方向性が定まらないという企業が少なくない。
「現行の業務を調査したうえで、活用方針を明確化して新たに業務を設計する必要があります。また、運用に関しては、継続的に改善可能な方法を定義し、クラウド活用や外部委託も含めたコスト削減策も求められることもあるでしょう」(水島氏)
今後、スマートフォンやタブレット端末が企業の営業/販売などの現場を変えていくツールになっていくことが予想される。それらを迅速に導入し高い付加価値を得るためには、以上の3つのステップを十分に検討する必要があるだろう。
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