アジアのITインフラの最前線、拡大続く海底ケーブルやデータセンター事情Interop Tokyo 2012 Report

アジア地域の発展が著しい中、ITインフラの在り方はどのように変わっていくのか。海底ケーブルからインターネットエクスチェンジ、データセンター、クラウドまで視野に入れたパネルディスカッションがInterop Tokyoで行われた。

» 2012年06月21日 18時50分 公開
[岡田靖,ITmedia]

 ビジネスのインフラとして重要な存在となったデータセンターや通信回線。近年はクラウドコンピューティングの台頭による技術要件や、日本を除くアジア地域の発展に伴うビジネス要件が、それぞれに激変している。こうした中でデータセンターや通信インフラの在り方はどのように変化していくのか、そして、事業者はどのような取り組みで国際的な競争に立ち向かっているのか。

 6月15日に「Interop Tokyo 2012」のカンファレンスで行われたパネルディスカッション「インターネット アジアビジネスの最前線〜ケーブル、ネット、データセンター、クラウド〜」から、国際通信回線やデータセンター事情の最前線を紹介する。

国際通信回線の容量と遅延対策の最前線

 アジアの多くの国では、急速な経済発展に伴ってインターネットユーザーが急増し、それを支えるITインフラの需要が高まっている。同時に、クラウドサービスの台頭で企業などのシステム環境が大きく変わり、データセンターやバックボーン回線の在り方にも影響を及ぼしつつある。

PACNET Global Singaporeの石井秀雄氏

 PACNET Global Singapore プロダクトストラテジー・マネジメント バイスプレジデントの石井秀雄氏は、「アジア域内は、今まさに各地でデータセンター新設が進められている最中。現地のデータセンター運営企業を買収して進出する動きもある。海底ケーブルもアジア域内にはすでに何本も敷設されているが、さらに新設が進んでいる。現在進行中のものだけでも80テラbps以上の帯域が増加し、ほぼ倍増される予定だ」と説明する。

エクイニクス・ジャパンの古田敬氏

 アジアでは日本以外の国のインターネットの発達が著しい。もともと日本がアジアの中では突出していたが、各国の経済成長で差が詰まってきているのだ。エクイニクス・ジャパン 代表取締役の古田敬氏は、インターネットトポロジーの仕組みを基にこう説明した。

 「2002年はアジアでは東京にトラフィックが集中していたが、2010年になると日本以外のアジアの線が濃くなっている。また、日本を除くアジアの比率が相対的に高まるトレンドは当面変わらない。ビジネス環境はアジア―パシフィック、欧州、米州という三極化が進んできた」

インターネットトポロジーの図

 アジア各国間、あるいはアジアと北米やヨーロッパとの間のトラフィック増加に対応すべく、通信事業者は海底ケーブルの新設や、既存ケーブルの増強を進めている。新設される海底ケーブルの中には、日本の通信事業者が関わっているものも少なくない。その一つ、6月末からフェーズ1の運用開始が予定される「Asia Submarine-cable Express(ASE)]

は、NTTコミュニケーションズが参加しているプロジェクトだ。同社サービス基盤部 部長の伊藤幸夫氏は、次のように説明している。

NTTコミュニケーションズの伊藤幸夫氏

 「海底ケーブルの遅延は、使っている機器の影響よりも距離による影響が圧倒的に大きい。ASEは遅延をできるだけ小さくするため、日本からシンガポールまで最短のルートで設計されている。台湾とフィリピンの間には過去に地震などの影響でケーブル故障が頻発したエリアがあり、それを避けて災害耐性を高める工夫も施した。日米間を最短で結ぶケーブル『PC-1』も組み合わせると、東京を経由してシンガポールからシアトルまでほぼ一直線の、理想に近い最短ルートを構成できる」

ASEのルート
KDDIの鹿野浩司氏

 こうした海底ケーブル網の整備は、NTTコミュニケーションズ競合するKDDIでも進められている。KDDIの鹿野浩司氏は、同社のグローバルネットワークについて、「ユーラシアの内陸を通ってアジアとヨーロッパを結ぶ、おそらく最短ルートのケーブルもある。今度のロンドン五輪は完全に“デジタル化された”五輪になるといわれるが、その情報はこうしたルートを通ることになるだろう」と述べた。

KDDIのグローバルネットワーク図

地域密着の事業展開・国際的な競争

 通信回線と同時に需要が増大しているのが、データセンターやインターネットエクスチェンジ(IX)だ。各国の経済活動が活発になって、それぞれの国では国内にデータセンターが求められ、また、グローバルなインターネットサービスを展開する事業者の進出もあって、データセンターの建設ラッシュのような状況にある。当然ながら、地域内での事業者間の競争も激しくなりつつあり、各事業者はさまざまな方法で差別化を図るなどしている。

 NTTコミュニケーションズは、ここ2年ほどの間にシンガポール、マレーシア、香港、さらに東京にも相次いで新設データセンターの運用を開始している。伊藤氏は、「各地に保有しているデータセンターがあるが、需要増に対応すべく新設もしている。香港のTKOデータセンターはASEケーブルのランディングポイントを兼ね、オフィスビルも併設した。マレーシアの『サイバージャヤ3』では現地のデザイナーの意見を取り入れて壁面を緑色にしたり、東京の第5データセンターは16階建と高層にするなど、それぞれの地域の特性や需要動向を設計に取り入れた」と説明する。

NTTコミュニケーションズがアジア各地に展開するデータセンター

 各地のデータセンター事情には、経済動向だけでなく法律や政治体制、さらには現地通信事業者や電力会社などの動向も強く影響を与えると石井氏は指摘する。

 「アジアは政治色の強い国が多い。国ごとに事情がそれぞれ大きく異なる。データセンター誘致も、例えば税制優遇など政府主導で行う国が多い。IXに対しても、国内や地域内での需要が高まってきているが、IXを持つのは多くの場合、50%以上のシェアを握る元国営の通信事業者だ。そのような会社との交渉は、いろいろと複雑なものになっている」

 鹿野氏も、「当社は各国でデータセンター事業だけでなく現地でのSI事業や域内通信事業も手掛けており、いろいろな壁を乗り越えてやっている。規制や工事品質、電力や物件の確保など、日本での想定が通じず、『想定外が当たり前』というのが、われわれの経験。やはり現地のパートナー、特に政府や電力会社などとしっかりパイプを作り、地元の力を生かす事業にしていくことが大事」と語る。

KDDIのグローバルデータセンターサービス「TELEHOUSE」事業の展開

 一方、IXおよびデータセンターに特化した事業を展開するエクイニクスの古田氏は、さらに国によって主要なアプリケーションも違ってくると指摘した。

 「香港は金融、シンガポールはクラウドといった具合に違いがあり、当然ながら、そうしたアプリケーションによってパフォーマンス要求も変わってくるため、それぞれに最適化していくことが求められる。中国などは“ハコモノ”を作るのが好きなようでデータセンターの建設は容易だ。その大きなセンターを生かしたオンラインゲームやSNSなど伸びが大きいといった特徴がある。一方、日本のデータセンター市場は中国やインドに比べても今なおアジア最大規模の市場だが、国内需要に閉じており、アジアのハブとなるようなデータセンターが少ない。ユーザーがグローバル展開しているのに比べると、インフラ側のグローバル展開は限定的だ。日本のデータセンターは今後インフラ志向に向かうのか、サービス志向に向かうのか、その岐路に立っているのではないか」としている。

アジア―パシフィック地域の主要国ごとのデータセンター事情

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