日立製作所による講演「ビッグデータ利活用に向けた日立の取り組み」ではスマート・ビジネス・イノベーション・ラボ データ・アナリティクス・マイスターの吉田順氏がビッグデータ活用における人材の重要性を提起した。
近年、ハードウェアの価格性能比の向上や非定型データの分析技術の進化、モバイル端末の普及などによるデータ収集方法の広がりを背景に、吉田氏は次のように語る。
「Googleの広告パーソナライズやAmazonの商品リコメンドなどを例に、顧客自身の活動が顧客体験をさらに高める仕組みが構築されつつある。アイデアを具現化するITが発展してきたが、アイデアを生み出すのは人間だ。価値創造にはITと人間の両輪が不可欠になっている」
同社ではビッグデータ利活用の技術だけでなく、今年4月にデータ分析サービスの専任組織「スマート・ビジネス・イノベーション・ラボ」を設立した。日立グループ内からデータ分析の研究者やコンサルタント、システムエンジニアなど200人以上の人材を集結させ、ビッグデータ利活用サービスの本格展開を始めた。
日立グループとしても、英国の高速鉄道事業で車両に搭載するセンサの情報を活用した予防保守や、名札型センサを活用して組織内の対人コミュニケーションを定量化するサービス「ビジネス顕微鏡」など多種多様な実績がある。その豊富な経験を顧客のビッグデータ活用にも役立てていくという。
日本IBM インフォメーション・マネジメント事業部 マーケティング・マネージャーの中林紀彦氏は、「さまざまなビッグデータに対処する技術とその先進的活用事例」と題して講演を行った。
「経営者は、『顧客に対する洞察』から特に『個』のレベルで、非常に強い興味を抱いている。ありとあらゆるデータを使っての洞察を得るために投資を検討している」と語り、幾つかの事例を紹介した。
例えば、あるショッピングサイトではTwitterのトレンドワードに応じて商品の配列を変えているという。トレンドワードに対応する商品へのアクセス数と売上は、トレンドワードの出現にやや遅れて伸びる傾向が分かり、トレンドワードをより早く察知してプロモーションに生かせば、アクセス数や売上のさらなる伸びるが期待できるとの洞察から、取り組みを始めたという。
ツイートのテキスト解析を通じて売上やアクセス数との相関関係を分析する仕組みを構築し、モデルに照らしてリアルタイムかつ自動的に対応できるようにした。分析時間が従来の10分の1〜100分の1に短縮され、ほぼリアルタイムな対応が実現したとのことだ。
「重要なのは人間であり、ビッグデータを次の行動に生かす決断力、リーダーシップが必要だ。ビッグデータ活用にはいろいろな課題があるが、まず行動を起こすことが大切になる」と中林氏は語った。
ビッグデータがもたらす価値創造について、日本オラクル 製品事業統括 担当ディレクターの首藤聡一郎氏が講演した。テーマは「先進事例にみる、ビッグデータ活用術とビジネス価値」である。
同社は、ビッグデータの特徴を「4つのV」――Volume、Velocity、Variety、Value――と定義する。これらは新たなビジネス価値を生み出す可能性を秘めたもので、首藤氏は特に「Value」の重要性を強調する。
「データに価値があるわけでなく、ビジネスに生かすことで価値が生まれる。まずは社内の『スモールデータ』を活用できる基盤が整備されているかが重要だ。その上でようやくビッグデータを活用できる」(首藤氏)。またIT以外の知恵を活用すべく、外部パートナーの支援を必要に応じて調達することも大切だという。
同社のソリューションではこれをどう実現するか。自動車メーカーとディーラー網での活用シナリオでは「バッテリーに関するトラブルの増加理由を品質管理担当者が究明する」という想定でデモを行った。修理履歴などのデータ(スモールデータ)と顧客とのやり取りした記録(ビッグデータ)を、仮説を立てながら分析して必要なデータを絞り込む。仮説に反する結果が出て、最終的に発電機の不具合が可能性と浮かび上がってくると様子を再現した。
「このようなケースでは実際に発電機の調査や検証することになるだろう。ビッグデータ活用で可能性の低い仮説を除くことで、迅速な不具合の発見や対策が可能になる」(首藤氏)
データ品質に焦点を当てた講演「Search Discovery & Analyticsが提唱する企業でのビッグデータ活用」には、ウチダスペクトラム社長の町田潔氏と、米LucidWorks チーフサイエンティストのグラント・インガーソール氏が登壇した。
ウチダスペクトラムは、エンタープライズサーチアプリケーションを長らく手掛ける。町田氏は、「構造化データ、非構造化データを問わず情報を仮想的に統合、可視化し、必要な情報をすぐ入手して次の作業に取り掛かれるユーザー体験を提供してきた。そしてビッグデータに対してはLucidWorksとの戦略的提携を結んだ」と説明した。
LucidWorksは、オープンソースのツールをベースにスケールアウト型の検索プラットフォームを提供する。ウチダスペクトラムはLucidWorksの技術を同社のソリューションに取り入れ、販売も行っている。
インガーソール氏は、「キーワード検索が既にコモディティ化し、今後は『SDA(検索・発見・分析)』が重要。ユーザーの行動やコンテンツの関係性などをとらえ、『セレンデピティ(思いがけない気付き)』を提供する。ビジネス面ではコスト効率の高いシステムであること要求される」と語り、特に重視するのが「発見」だという。
「データの品質管理が重要だ。元々のデータは膨大で『騒音』も混じっているが、機械学習を通じてユーザーの気付きに与えられる形にしなくてはいけない。期待する情報をすぐに得られるよう、最初からデータ品質を意識してシステムを設計することが重要だ」(インガーソール氏)
1990年代からWeb上の膨大な「ビッグデータ」を相手に進化を続けてきた検索テクノロジー。現在の検索テクノロジーでは何が可能になったのか。ユーザーとデータを真の意味で結び付けるカギを探る。
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日本マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部アプリケーションプラットフォーム製品部 エグゼクティブプロダクトマネージャーの北川剛氏は、「ビッグデータ活用で加速させる、現場での意思決定」と題して講演した。
ビッグデータなどのデータ活用には、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールが利用される。しかし、BIツールの利用にはスキルや知識が要求され、データマイニングまで行っているケースは少ないと北川氏は指摘する。同氏は、ユーザーが慣れ親しんでいるExcelやWebブラウザをユーザーインタフェースにしたSQL Server 2012の活用を紹介した。
「SQL Serverを使ってWebブラウザで動く経営ダッシュボードを簡単に作成できる。SQL Server付属のExcelのアドインをExcelではSQL ServerのデータマイニングエンジンをExcelから利用でき、『予測ウィザード』で今後の推移の予測、キューブを使った非定型分析も可能になる」(北川氏)
また現場での情報活用でしばし課題になるのが「データの鮮度」だ。BIツールでは月次や四半期、年次単位でデータを管理する傾向にあるという。これらの粒度は経営層が利用しやすいものだとされ、BIツール導入当時のコンピュータ性能の限界などから妥協点となった可能性もある。だが現場での意志決定には、より鮮度の高いデータが求められてくる。
「これを乗り越えなければ、ビッグデータ活用にたどり着けない。処理可能な技術が既にあるので、ぜひ確かめてほしい」(北川氏)と呼び掛けている。
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