ソーシャル普及でクレーマー化する個人と風評リスク“迷探偵”ハギーのテクノロジー裏話(2/2 ページ)

» 2013年03月15日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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被害者ならまだしも、加害者になる傾向が増大

 こういう現状から、「詐欺に引っ掛からないように気を引き締めよう」というのが、本稿の主目的ではない。実は20代の若者を中心に、SNSで勝手し放題の振る舞いをし、本人も知らないうちに「クレーマー」「モンスター評論家」になっている方が急増している。

 この連載で何度かお伝えしているが、「SNSは会話じゃない。運が悪ければ10年後も20年後も、あなたが死んでからも残る『デジタル情報』」であることを訴えたい。

 それを知らず(知っていても「怖さ」を知らないのでつい雰囲気で書いてしまう)、会話のようにSNSを利用している。第三者からも見えているその「会話」が、ともすれば(昨年も何件かあったが)社会的な信用を失うことにつながる。

 学生がアルバイト先で「気軽に」つぶやいて騒動になり、雇用した企業が謝罪する。本人は当然クビになる。しかも、そのことが就職活動にも大きく響く。まず、まともな会社への就職は絶望的だ。友人や親戚、家族からは軽蔑される。

 また、正規の従業員が仕事時間中にTwitterや掲示板で自社の不利益な発言に対して過剰に反応し、反対意見を述べたり、正義感から「実はそこの従業員だけどそんな事実は絶対にありません。そういう嘘は書かないでください」と書き込んだりすることもある。こういう場合は、その後に炎上し、本人の個人情報も暴露され、会社にも謝罪を要求され、最悪の方向になってしまう可能性もある。しかし、当人にはそういう認識がない。ここまで来ると「世間知らず」ではなく、単なる「お馬鹿」になってしまう。

日本では企業の対応策が不十分

 諸外国ではこれらの情報管理を含めた包括的でさまざまな制限が決められている。そもそも、仕事中にTwitterやFacebookを利用することは、企業内SNSなど意識的に解放されたものを除いて許可していない場合が多い。

 ましてやそこに参加し、しかも自社内の情報や非難された内容の否定を行うことは、極めてリスクが大きい。当人は、「専門部以外は外部に情報提供はしてはいけない」という一般的となっているルールすらも知らないというわけだ。

 逆もまたしかりである。コンサルタント企業から聞いた話だが、仕事中にライバル企業の誹謗中傷を多々書き込んでいた20代女性を発見したという。情報漏えい防止用ツールを全社員に適用して分かったとのことだ。このケースは、ライバル企業に気付かれなかったのが不幸中の幸いだったという。

 今後の対策を述べてみたい。

  1. まずはSNSを職場で許可していいか、禁止すべきかを検討する。許可する場合、具体的にどこまで許可するのかを決める
  2. 企業にとってSNSは、「誹謗中傷に巻き込まれる」リスクと内部の人間が「誹謗中傷を行う」という両極端なリスクを抱えた存在である。SNS経由でのウイルス感染や情報漏えいにも防御策を検討する
  3. 企業のSNS運用は常に監視すべき。有益な面とトラブル時におけるマイナス面を事前に詳しく検討し、想定問答集を作成しておくと良い
  4. 従業員の啓蒙教育を形骸化させない。従業員の一人ひとりが心の底から怖さ、有効さ、リスクを認識し、真に企業の成長にとって役に立つツールとなる使い方を学ぶようにする

ネットクレーマーに対する企業の対策

 この点については、以前に韓国の通信会社KTの役員が国際学術誌に論文を投稿された。そこではクレーマーを「敵」とするのではなく、うまく付き合うことを推奨している。

 企業としてはできる限り冷静に対応し、どこに「非」があるのか、個別具体的か、一時的であるか、その社員固有の状況か、普遍的か(例えば「このアイロンのこの部品に欠陥がある」など)といった観点でクレーマーの主張などを分析し、謝罪をするなら極力早めに実施した方がいい。

 筆者もある企業において、中立的な第三者機関を仲介させ、「そこの調査結果」という形で発表を行うという対応をしたことがある。クレーマーの気持ちを逆撫ですることなく、クレーマーに付和雷同型の人間たちの炎上も避けながら、冷静かつ戦術を見極めて対応しなければならないと考えて対応した。

 特に、社内にその火種があるような場合であれば速やか調査し、従業員が非を認めたなら、その事実はきちんと公開すべきである。「身内だけに優しい」と思われた企業に未来はないだろう。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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