救急搬送をiPadで見える化した佐賀県、自称・ITオンチの新任職員はどう挑んだのか?地方自治体のIT活用探訪(2/3 ページ)

» 2014年04月02日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

現場に溶け込むシステムに

 円城寺さんは当初、「モバイル機器を導入すれば解決するだろう」と考えたものの、すぐに現場から猛反対された。実は15年ほど前に、同様の目的でモバイルPCが救急車に配備された。だが当時は、今よりも巨大なPCは狭い車内では邪魔な存在になってしまい、キーボード入力の音もうるさいと迷惑がられた。

 「隊員の方にとって、こうした機器には嫌な思い出しかありませんでした。『それなら、スマートフォンではどうか』と提案しましたが、小さ過ぎて扱いづらく、『見た目にも遊んでいると誤解されかねない』と強く反発されてしまいました」(円城寺さん)

 そんな時、円城寺さんの目に飛び込んできたのが、iPad発売のニュースだった。多くの人が都心のショップに並んでいる映像を見て、iPadの特徴である大画面の見やすさや使いやすさに、救急医療の課題を解決できる可能性を直感したという。しかし、日本へ上陸したばかりのiPadを佐賀県として導入し、救急のような過酷な現場で運用していくのは簡単では無かった。

 「当時は予算も権限も無く、iPadを購入できるショップも県内に無い状況で、どのように使い、現場に受け入れてもらえるかという思案に明け暮れました。iPadを導入できるようになった後、隊員の方に何度も協力していただき、iPadを現場のワークフローにうまく組み入れ、業務を改善していける方法にこだわりました」

 救急車の車内からiPadで利用する機能は、大きく病院の検索と受け入れに関する参考情報の閲覧に絞り込んだ。iPadにはWebアプリがインストールされ、画面をタップすれば、すぐに起動する。

iPadにインストールされているアプリ。病院検索以外にもGoogle Mapsで地図を確認したり、外国人の搬送に備えて翻訳アプリなども用意している

 病院の検索では症状や診療科目、地域を選択すると該当する病院が表示される。検索結果の画面では病院ごとに最新の搬送日時と過去24時間の搬送実績、診療科目の受け入れ具合を3段階(積極的に受け入れ、受け入れ可能、不可)で表示する。さらに、24時間以内の受け入れ実績を詳細に確認できる。

病院検索における実際の画面(左)と検索結果の内容

 iPad本体は、取り付けるカバーで容易に携行できる形状にこだわり、隊員が手袋を装着したままでも画面をタップ操作できるようスタイラスペンを付属した。なお、搬送先の病院を探す手段は従来の電話を中心としており、「iPadも使える」という具合に補助的な手段に位置付けている。

県医務課用のiPad。救急車にもほぼ同様のカバーを装着して設置されている

 救急搬送の受け入れ病院を検索できるシステムは、実はiPadの導入以前から運用されていた。しかし、病院が常に最新情報を入力しなければならず、そのために人員を確保したり、院内の状況を逐次把握したりしなければならないなど、負担が大きいものだった。利用者も少なく、ほとんど活用されない状況になっていたという。

 このためiPad導入に合わせてシステムも改修した。病院側には基本的に、朝と夕刻に受け入れできる科目と受け入れ具合を入力してもらうようにし、搬送実績や大まかな内容は救急隊が搬送先の病院から消防署に帰着する間に入力してもらうようにした。

 「救急対応時にリアルタイムに情報を入力してもらうことは、ほぼ不可能です。そこで、なるべく手間のかからないタイミングに搬送状況を選択式で簡単に入力してもらえるように工夫しました」

搬送実績の入力画面

 検索システムには、個人情報など機密性の高いデータも入力していない。あくまで搬送時に必要な最低限の情報だけを扱えるように限定しており、救急隊員もほぼ100%情報を入力しているという。

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