たった39万円でシステム構築を請け負うジョイゾー田中克己の「ニッポンのIT企業」

追加料金が発生しない業務システム構築サービスの提供を始めたジョイゾー。これはIT業界で当然とされてきた人月ビジネスモデルに変革を迫るものになるだろう。

» 2014年09月24日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 中小IT企業のジョイゾーが2014年6月末、クラウド上で開発する業務アプリケーションの費用を39万円で請け負うサービス「システム39」の提供を開始した。追加料金が発生しないこの構築手法は、これまで長年にわたってIT業界にはびこってきた人月ビジネスモデルの変革を迫るものになるだろう。同社の戦略に探ってみた。

4回の打ち合わせでシステムを完成

 2010年12月設立のジョイゾーは現在、サイボウズのクラウドと開発基盤を使ったシステム構築に特化した事業を展開する。元々はグループウェアのインストールや導入支援などで事業をスタートしたが、四宮靖隆代表取締役は「クラウドで大手と戦える土台ができる」とし、クラウドをベースにしたシステム構築への事業シフトを模索していた。差異化を図るためでもある。

 四宮氏はジョイゾー創業前に勤務していた受託ソフト開発会社時代からサイボウズのグループウェア関連の開発業務などに携わってきた。その約10年間の経験を生かせるビジネスを考えていたところ、サイボウズがクラウド市場への本格進出を決めた。そこで、ジョイゾーは物理環境のグループウェアをクラウドに移行する作業を支援する一方、クラウド開発環境「kintone」を使ったシステム構築を手掛けることにした。

 実は、四宮氏はkintoneのα版を知ったとき、「これはいける」と感じていた。中小企業が求めるシステムを短期間かつ安価に開発できる可能性を秘めていると思ったからだ。一般的に業務システムを開発するには、仕様を固めてから設計、開発に入るので、稼働までの期間や費用がかかる。例えば、Excelで作った営業日報をもっと有効的に活用するために、新たなシステム化を図ろうとし、IT企業に見積もりをとると、100万円、200万円といった金額を提示される。結局、「当社にそんな予算はない」となり、中小企業は諦めて、不便でも今のシステムを使い続ける。

 そんな中小企業にジョイゾーはシステム39を提案する。開発費用が39万円と明瞭で、4回の打ち合わせ(1回あたり2時間)でシステムを完成させる。打ち合わせは来店型、つまり顧客がジョイゾーの設けた場所に出向く。コストを抑えるためでもあるが、「初回の打ち合わせで、システム内容の6割から8割をつかんでプロトタイプを作り、顧客に見せる。『これでいいのか』というイメージを顧客が持てるし、当社も顧客の求めるシステムの範囲がより明確になる」(四宮氏)。逆に初回の打ち合わせで、顧客が納得できなければ、開発作業に入らない。費用も発生しない。

 開発可能なシステムは、kintoneの基本機能を使って、顧客管理や売り上げ管理、営業日報など3つのデータベースからなるものに絞る。「中小企業はしっかりしたシステムより、簡単に使えるものを求めている」(四宮氏)。kintoneを使って、「プログラミングせずに、Web上のマウス操作によってシステムを作る方法が世の中に広がっていく」と四宮氏は確信している。

人月ビジネスから抜け出す

 四宮氏は「作るものに対する価値、技術的な難易度などに対して対価が払われる」と考えて、人月による工数見積もりに疑問を抱いていた。この問題解決には、何らかの指標が必要になる。四宮氏の出した答えが定額だった。クラウドを活用した月額料と、追加料金の発生しないシステム開発、それがシステム39というわけだ。

 kintoneを使ったシステム案件は着実に増えており、2013年11月には案件の8割を占めるようになったという。顧客の多くは社員10人から100人程度の中小企業で、自信を深めた四宮氏は「kintoneをベースにしたビジネスモデルを作ることが、人月ビジネスを見直すことにもなる」と意気込む。

 仲間作りにも力を注ぐ。四宮氏はkintoneのエバンジェリストとして、中小企業の経営者や技術者に新しいシステム構築を説く活動をしている。その1つが「kintone Cafe」と呼ぶ技術者向けイベント。札幌の技術者が私的な勉強会として始めた同イベントを、仲間らと全国各地に広げている。「kintoneの布教活動のようなもの」(同)で、より多くの開発者にkintoneを知ってもらいたいとの思いがある。ビジネスチャンスが生まれることで、中小IT企業のビジネスモデルを変えられる可能性があるからだ。


一期一会

 四宮氏は「このままやっていても、(中小企業向け)システム開発の市場は大きく伸びない。新しいことに挑戦をしよう」と考えていた。そのためには、「ユーザーの求めることを理解し、それを実現する」という基本に立ち戻ることだ。特に、開発費をかけたのにもかかわらず、使われない無駄なシステムが企業には多数埋もれている。

 ユーザーニーズを実現する――そのためには、IT企業がユーザーから言われた通りにシステムを作り上げるのではなく、「こうしたらどうか」とアドバイスし、一緒になって開発する。それがIT企業に求められていることだろう。往々にして、ユーザーはより多くの機能を盛り込もうとするため、開発の期間も費用も余計に多くかかってしまう。

 システム化の範囲を最小限にし、「この部分だけにしましょう」と説得することも時には必要。スモールスタートし、IT活用の効果が発揮されたら次の機能を追加する。クラウドの利点を生かしたシステム化である。38歳になる四宮氏はそんなビジネスモデルを目指しているのだ。

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