試行錯誤の末、奈良先端大では次のような構成が最適との結論に至る。
頻繁にアクセスのあるデータは、オラクルのフラッシュストレージ「Oracle FS1-2 Flash Storage System」に格納。それ以外は「StorageTek SL8500」によりテープで管理する。これにより、従来からのHDDは一掃される。
ファイルシステムにはオンラインからオフラインまでのデータを自動管理する「Sun Storage Archive Manager(SAM-QFS)」を採用した。ユーザーからはテープがいわば“隠ぺい化”され、ディスクとして認識される。最初にフラッシュストレージ上でデータを管理し、一定期間データへのアクセスがないファイルはテープへ自動でアーカイブし、フラッシュ上のデータは削除する仕組みだ。ちなみに、テープドライブには「StorageTek T10000」を採用した。
この環境において、テープ媒体からのデータ読み取り時間は最短で15秒、最長で133秒、平均すると約73秒だという。数値は従来のHDD系システムより遅い。アクセス頻度は低いが、いざ使う時は利便性が劣る。このことをふまえた運用上の工夫ももちろん設けている。
「フラッシュ媒体へ事前移行しておくコマンド指示によって、瞬時のデータへのアクセスは可能です。ただ、ユーザーへの案内を徹底できていないのが不徳の致すところ。速やかに情報提供を進める考えです」(辻井氏)
ユーザーとシステム間には、従来からのストレージの使い勝手を維持するためのゲートウェイ(ヘッド)を設置している。クライアント端末とヘッド、およびフラッシュストレージとヘッドとは、それぞれ40Gbpsと32Gbpsのネットワークで結ばれている。
もう1つ、StorageTek SL8500でのテープによるデータ管理は、信頼性が高いメリットがある。読み書き時のエラー発生率は、SASと比較して1000分の1、LTOのテープと比べても100分の1に抑えられている。あらゆる記録メディアは規格がしばしば見直される。それはテープ媒体も同様だ。しかし「規格見直し後も、従来規格のデータの読み取りは可能になっており、15年は現状のまま利用できるはずです」と辻井氏。物理的には、テープならば30年以上のデータ保管が可能とする点が選択に至ったポイントという。
「大学での実験データは、将来の研究のための大変貴重な参考材料です。そのため保管期間は長ければ長いほど望ましい。もちろんテープだから絶対に大丈夫とも言い切れません。適切な管理手段の見極めはシステム担当者にとって永遠のテーマと言えるでしょうが、現時点は最適解と考えました」(辻井氏)
Flashとテープを組み合わせることで、奈良先端大では新たに24.4ペタバイト分のストレージ容量を確保した。そのうち、テープによるものが17.7ペタバイトを占める。2015年現在は学内研究者の求めに応じ、1人あたり上限50Tバイトのストレージ領域を提供している。
当初の懸念材料であった消費電力も、テープ媒体を利用したことで抜本的に削減された。HDD構成時比で約9分の1だ。さらにメディアが小型なことから、設置スペースも2分の1に削減できている。
もう1つ辻井氏は、テープ媒体のメリットに耐震性能の高さを挙げる。HDDは縦揺れに対する設計はなされているものの、「横揺れには弱い」(辻井氏)特性がある。テープ媒体はその構造上、横揺れへの対応力も高いのだ。
奈良先端大では今後、新たに整備したストレージ環境を、図書館システムのバックアップや、学外とのデータ共有のために活用する計画だ。オラクルのビッグデータ専用Hadoop実行基盤システム「Oracle Big Data Appliance」や統合ストレージ「Oracle ZFS Storage ZS3-2」の導入など、時代の先端をゆく環境を積極的に採用する奈良先端大。同大学が今後の未来に挑むITプロジェクトとは、果たしてどのようなものなのか。
「大学機関は外部のクラウド利用を国からも促されています。ただし我々は、自身の経験を抜きにITの知見の発信は困難だと考えています。今回クラウドストレージを独自に構築したのも、まさにこの考えに基づくものです。その利用拡大を通じ、リソースの集約による、より理想的なITのあり方を追求することこそ、我々のミッションにほかなりません」(奈良先端大の辻井氏)
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