旭酒造では、山田錦を栽培する農家を増やすと同時に、品質や収穫量の向上にも取り組んでいる。その1つが富士通の食・農クラウドサービス「Akisai(秋彩)」の導入だ。「別件で富士通の講演会に参加させていただいた際に、偶然このサービスの話を聞き、導入を決めた」(桜井氏)という。
Akisaiは農地での作業データや気象などの環境データ、生育データなどを収集し、それらを経営、生産、品質などの軸で分析して農業経営に活用するサービスだ。日々の作業実績や生育の様子を生産者が記録するほか、農地に設置されたセンサーで気温、湿度、土壌温度、土壌水分、EC(電気伝導度)値を1時間ごとに取得したり、定点カメラで生育画像を毎日撮影したりする。
集まったデータはクラウド上に蓄積され、担当者が分析作業を行う。栽培方法や温度、肥料の量などを調節し、品質や収穫量の向上を目指す。Akisaiを利用することで、栽培実績を数値として記録できるほか、契約農家間でデータを共有できるようになるのが大きなメリットという。データ重視の酒造りを行う旭酒造らしいアプローチだ。
「他のビジネスから見れば、農業っておかしなところがあるんです。知識の蓄積や活用が行われていない。例えば『今年は冷夏だからダメだった』と言われても、本来なら打撃を受ける前に対策を練らなければいけませんよね。逆に、暑かったから品質が上がったという話も同じ。要するに“何をしたらどうなる”ということを忘れてしまうから、別の機会に生かせないのです」(桜井氏)
こうした取り組みが実を結び、2014年度の山田錦の収穫量は38万俵から48万俵までに増えた。この増産に桜井氏も驚いたという。「取り組みを始めたときに『60万俵の山田錦を安定的に調達したい』と目標を立てましたが、実は正直なところ、60万俵は無理だと思っていました。しかし、最近では60万俵もいけるんじゃないかと考えを改めました」
最近ではニューヨークやパリなど世界の名だたる名店でも獺祭がメニューに入るようになった。1人でも多くの人に『獺祭』を味わってもらうこと。それが旭酒造の長きにわたる“挑戦”である。
「酒を作る限りは、結局のところお客様に飲んでもらわないといけない。幻の酒ではダメなのです。いくら美味しくても少ししか作らなければ、結局は日本酒の未来へとつなぐことができない。だからこそ、大量生産を目指しているのです」(桜井氏)
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