小柳津氏は最初に「テレワークを活用した働き方」について説明した。図2は、従来の形態と日本マイクロソフト(MS社)での取り組みを比較したものである。左側の従来形態は、現状の業務プロセスから一部を切り出して、在宅で仕事をしているといったイメージだ。それに対し右側のMS社の形態は、全員の毎日の働き方として、どうすれば業務効率を上げながら働きやすくするかを追求したイメージである。
では、どうすればMS社のような形態にできるのか。小柳津氏は「業務のプロセスやフロー、手続き、段取りなどを徹底的に標準化し、システムに落とし込んだりアウトソースを適切に使うことで実現できる」という。ただ、図2を見る限りでは、ICT環境を整備して業務の標準化に取り組めば事足りるようにも思えるが、むろんそう簡単な話ではない。
そこで同氏は図3を示し、「最も勘所となるのは、左側のオレンジ色の部分と、右側の紫色の部分のバランスを取ることだ」と語ったうえで、次のように説明した。
「左側の職場やモバイルといったオレンジ色の部分は効率性や利便性につながる要素で、働き方の多様性を目にして見られる“華やか”なフロント部分だ。例えばテレワークを紹介する際もこの部分が前面に出ることが多い。しかし、マネジメントの観点から見て非常に重要なのは、右側の労務管理や情報管理といった紫色の部分だ。ここが現実的に運用できなければ、安心・安全は担保できない」
先述したテレワークの阻害要因でいえば、マインドや制度については図3の紫色の部分の話になる。実は、日本マイクロソフトではこうしたテレワークの取り組みについて、外部から依頼があれば説明に応じており、すでにこの4年間で多数の個別セミナーを実施している。その際、マネジメント層から最も質問が多いのは、やはり紫色の部分の話だという。
では、そうした折りにどんな話をするのかというと、図4および図5に示したような内容である。いずれもテレワークによるワークスタイル変革推進のフレームワークを示したものだが、小柳津氏は会見でこれらの内容について細かく触れなかったので、ここでも図の掲載だけにとどめておく。ただ、テレワークに関連する要素やチェック項目をとらえるうえで参考にしていただけるのではないかと思う。もちろん、同氏によると、これらの内容もさらに細かくブレークダウンされているという。
そして小柳津氏は最後に、テレワークの有効性、つまりはこれまでの成果について一端を明らかにした。現在の品川オフィスに移転する前の2010年時点と比較した2015年の実績として、ワークライフバランス満足度が40%増、社員1人あたりの売上高が26%増、働きがいのある会社との回答が7%増、残業時間が5%減、旅費・交通費が20%減、女性離職率が40%減、ペーパーレスが49%減になったとしている。同氏によると、11月のテレワーク月間の折りには、さらに詳細な成果や失敗談などについても情報開示する予定だという。
今回の日本マイクロソフトの話を聞いて、筆者が改めて強く感じたのは、「テレワークの取り組みはまさしく経営改革ととらえるべき」ということだ。なぜ、経営改革か。テレワークによるワークスタイル変革もさることながら、今後「テレワークがニューノーマル(新常態)になっていく」と考えるからだ。5年後には、テレワークの取り組み度合いで、企業競争力に相当の差がつくのではないか。企業にとっては計画的な取り組みが必要となるだろう。
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