マイナンバー2015

第6回 今年と来年の「年末調整」をどうするか税理士目線で提案する「中小企業のマイナンバー対策」(1/3 ページ)

中小企業のマイナンバー対応は「士業への委託と連携+できるだけ持たないを考えた実務」がキモになる。6回目は「源泉徴収税(年末調整)業務」が、今年(2015年)と来年(2016年)でどう変わるか、何を留意するかを解説する。

» 2015年08月26日 08時00分 公開

講師:中尾健一(なかお・けんいち)氏

アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役。1982年日本デジタル研究所(JDL)入社。日本の会計事務所のコンピュータ化を30年以上に渡りソフトウェア企画面から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システムを企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。2015年4月に発足したクラウドマイナンバー事業における「マイナンバーエバンジェリスト」として、中小企業の財務を担う税理士の視点から、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。



 企業がマイナンバーを取り扱う税分野の主業務が源泉徴収税関連業務となります。マイナンバーの収集は今年(2015年)の10月以降より行うとして、今年(2015年)と来年(2016年)の源泉徴収税関連業務のうち「年末調整関連の業務で留意しておくべき点」を整理してみましょう。

マイナンバー制度は認知が進まない状況を認識して準備を進める

 一般財団法人経済広報センターが2015年8月に入って発表した「マイナンバー制度に関する意識調査報告書」(以下、調査報告書)によると、マイナンバー制度の「内容まで知っていた」割合が約59%と、まだ認知が進んでいない状況が浮かび上がっています。

 2015年10月5日から、日本の住民票を有する個人にマイナンバーの通知カードの送付がはじまります。上記の調査報告書では、この通知カードの認知度についても調査しています。通知カードが10月以降に送付されることを「知っていた」のは約58%ということです。従業員の中には、実際に通知カードを受け取ってはじめてマイナンバー制度を知るという人も少なくなさそう……が現状といえるでしょう。

 とはいえ、2016年(平成28年)1月からマイナンバーの利用が始まります。従業員などのマイナンバーを取り扱うことになる事業者(つまり、みなさんの会社)が、源泉所得税関連業務を税理士に委託しているならば、顧問税理士と相談の上で、従業員へのマイナンバー制度の啓もうや、源泉所得税や社会保障の手続きのために従業員や扶養親族のマイナンバーが必要なことを周知することが必要です。例えば、職場の掲示板などで印刷物を掲示する、同報メールで通知するなども対策の第一歩です。

 そして、認知が一気に進むであろうマイナンバー通知カードの送付のタイミングで、従業員などのマイナンバーをきちんと収集できるよう(端的には、従業員がカードを紛失してしまわないよう)に、この点もあらかじめ従業員に周知するとともに、そのための準備を進めておくことが大事です。

 マイナンバーの収集に向けた税理士と企業の準備については、前回までの連載で整理しておきました。しかし、収集は企業で、利用・保管は税理士事務所で──などと役割分担をする場合、税理士事務所で使用しているシステムによって具体的な収集方法なども異なってきます。この点も顧問税理士と早めに相談して進めていきたいところです。

「今年の年末調整」でマイナンバーの取り扱いは必要か

 従業員からのマイナンバーの収集は今年(2015年)行うとして、「今年(2015年)の年末調整(平成27年分の給与所得に関する年末調整)」で、このマイナンバーを使用することはあるのでしょうか。

 中小企業が2016年1月に税務署に提出することになる源泉徴収票や支払調書など法定調書、市町村に提出することになる給与支払報告書などの様式には、個人番号欄は設けられる予定はありません。これらの書類にはマイナンバーは使いません。

 一方、今年(2015年)の年末調整で使用する帳票で個人番号欄が用意される帳票は「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下「扶養控除等申告書」)と「平成28年分給与所得者の保険料控除申告書 兼 給与所得者の配偶者特別控除申告書」です。

 そこで、この帳票に個人番号を記載するのか、ということが課題となります。

 この点については、国税庁が公表している「国税分野におけるFAQ(Q2-11)」では、平成28年分の「扶養控除等申告書」を今年(2015年)中に提出する場合は、個人番号を記載する必要はないとしています。

 ただしマイナンバーの収集のために個人番号の記載を求めてもよいともしています。どちらにするかは、各企業がマイナンバーの収集方法をどうするかによって決めることになります。

photo (参考)平成28年分の「扶養控除等(異動)申告書」の書式(出典:国税庁「国税分野における社会保障・税番号制度導入に伴う各種様式の変更点」 2015年6月30日現在のイメージ)

 マイナンバー収集時の本人確認では、番号確認として通知カードの提示を求めることになりますので、通知カードからその場でマイナンバーを電子データとして入力すれば、「扶養控除等申告書」をマイナンバーの収集に活用する必要はありません

 といいますのも、もともと「扶養控除等申告書」などは従業員が記載し、企業(源泉徴収義務者)に提出することで、税務署に提出したこととみなすもので、企業で保管しておくことになる書類です。このことを考慮すると、安全管理面の負担を軽減する、つまり個人番号を記載してしまうことで企業で厳重管理が必要となる書類を増やさないことを考えるほうがよいと思います。今年(2015年)中に集める「平成28年分の扶養控除等申告書」には個人番号は記載しないこととすることをお勧めします。

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