近年、バチカン図書館が8万冊の文献のデジタル化に着手するなど(参考記事)、歴史的価値のある文化財をデジタル化して保存する動きは広まりつつある。経年劣化による損傷が問題になるのは絵画も同じ。この技術は日本画の保存や復元にも使えると、本プロジェクトに関わった日立製作所の米澤恵さんは話す。
「今までも『国宝源氏物語絵巻』や川端康成の原稿といった文化財のデジタル化や、掛け軸や天井絵の修復に使われた実例があります。欧米に比べると、日本は文化財の保存や修復の予算が少ないのですが、カメラや画像処理の技術が高まったこともあり、今後は高品質なデジタル化への需要は高まっていくと思います」(米澤さん)
精巧なレプリカを作る技術が深化する一方で、絵画や美術品のレプリカ展示に反感を抱く人がいるのも事実だ。しかし、米澤さんはレプリカは“本物”の存在を補完するものだと主張する。
「レプリカは本物の素晴らしさを広める力を持っているという点で、本物の存在を補完し、価値を高めるものだと持っています。以前、信濃美術館に展示している絵画をデジタル化し、原寸大の大きさに印刷して長野の小学校に持っていったことがあります。本物の美術品を使おうとすれば、相当の費用がかかったでしょう。子供たちに対して、本物に極めて近いレプリカを見せられることは、教育的な価値もあると思います」(米澤さん)
「ウフィツィ ヴァーチャル ミュージアム2016」は、日本とイタリアの国交樹立150周年の記念事業でもある。展示会の開催にあたって、イタリア文化会館館長のジョルジョ・アミトラーノ氏は次のようにコメントしている。
「国と国との交流は、政治や経済もあるが文化的交流も重要です。イタリアの美意識や芸術が日本人の目に触れるのは素晴らしいこと。文学は翻訳が必要になりますが、絵画の鑑賞に必要なのは視線だけ。言語の違いを越えて伝わるものがあるはずです」
デジタル化されたデータをリアルな場で鑑賞する――。ウフィツィ ヴァーチャル ミュージアムは、これまでには考えられなかった鑑賞スタイルを提案しているが、Web上で絵画データを見るのとはまた違った面白さがあるのも事実だ。ITが進化していくことで、美術品と私たちの関係も変わっていくのかもしれない。
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