日本の伝統芸能「能楽」。世界的にも評価が高まっているが、予習なしでは内容が理解できないため、とっつきづらいのが現状だ。そんな状況を打開する方法として、今注目が集まっているのがタブレット。これは能楽文化を広める切り札になるのだろうか。
日本の伝統芸能である「能楽」。歌舞伎や人形浄瑠璃文楽などとともに、ユネスコの無形文化遺産に選ばれるなど、世界に誇れる日本の文化ではあるものの、見たことがない方が多いのではないだろうか。
実際、能楽の鑑賞者は“高齢化”が進んでおり、固定客が大半を占める状況という。確かに能楽の大半は古語、古典の世界であるうえ専門用語も多いため、普通の人にとって分かりにくく、とっつきづらい点がある。しかし近い将来、このような問題がITの力で解決されるかもしれない。
9月4日、東京・神楽坂にある「矢来能楽堂」でタブレット導入の実証実験が行われた。その内容は、観客にiPadを配布し、画面を見ながら公演を鑑賞してもらうというもの。シーンに合わせて解説を配信するシステムで、より内容が分かりやすい新たな鑑賞スタイルを目指すという。
一連の取り組みの発起人は、能楽の台本を専門に取り扱う企業「檜書店」だ。彼らは能楽を鑑賞する人が減っていることに対して強い危機感を持っていた。
「従来、能楽を見に来る人というのは能楽を習っている人がほとんどでした。彼らは台本を読んで予習をしてから見に来るのですが、近年はそういう人は減り、一般の方が演劇の一種として鑑賞するケースが増えています。しかし、その方たちにあらかじめ台本を読んできてもらうのは現実的ではありません。本に変わる新しいメディアが必要だったのです」(檜書店 代表取締役 檜常正氏)
そこで彼らが注目したのがタブレットだ。台本をデジタル化し、観客に見てもらいながら鑑賞してもらうことはできないか――。檜氏を中心にシステム開発のパートナーを探すなか、能楽関係者に紹介してもらったのがNTTコムウェアだった。
「さまざまなシステムを検討していたのですが、字幕と解説がスムーズにスクロールすることや、標準的なWebブラウザさえあれば専用端末やアプリケーションを用意しなくても動作する、運用のしやすさが決め手となりました。今回はこちらが端末を用意しましたが、個人のタブレットやスマートフォンに配信することも可能です」(檜氏)
こうして2015年3月に話がまとまり、6月から本格的な開発が始まった。台本のデジタル化というと簡単に聞こえるかもしれないが、「新たに一冊の本(台本)を作るようだった」と檜氏は振り返る。システムの開発にはさまざまな苦労があったそうだ。
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