血液ガンに侵され、死を覚悟した女性を人工知能「Watson」が救ったIBM World of Watson 2016(2/2 ページ)

» 2016年10月28日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]
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 東大病院にWatsonがやってきたのは2015年7月のこと。研究目的での提供であったが、ヤマシタさんのゲノム解析は終わっていたため、Watsonによる分析を実行。10分間で解析が終わり、提示された結果を確認したところ、別の白血病を発症している可能性があることが分かった。

 その白血病は対応可能な突然変異によるものだったため、すぐに新しい抗がん剤を出したところ、病状は完全に回復。ヤマシタさんは約2カ月後に退院したという。ヤマシタさんは「先生、私は人工知能は未来のSFに出てくるようなものだと思っていました。それが私のところに来てくれたんですね」と宮野氏に話したそうだ。

 人工知能に人の命に関わる判断を委ねることについて、不安に思う人もいるかもしれない。しかし宮野氏は、Watsonは臨床医をサポートする存在であり、あくまで診断そのものは医師が行っていると説明した。そして、Watsonが医療システム全体を変える可能性があると話す。

 「彼女の症例はほんの1つに過ぎません。東大病院では困難な症例の患者を多数受け入れています。Watsonは患者に希望の光を与える存在と言えますが、それには膨大な精密医療の知識が基盤になります。がん研究というのは、患者が参加したデータこそが成長のカギ。Watsonは今後、がんだけではなくさまざまな病気に適応し、医療システム全体のブレークスルーになるでしょう」(宮野氏)

Watsonで医療はどう変わるか?

photo IBMの会長、社長兼CEOを務めるジニ・ロメティー氏

 基調講演ではIBMの会長、社長兼CEOを務めるジニ・ロメティー氏が、最新のWatson活用事例を紹介した。特に医療分野については、宮野氏以外にもイスラエルのジェネリック医薬品の製薬企業、TEVAとの協業と事例を紹介。Watsonによるコミュニケーションで患者一人一人に合わせた医療が実現すると強調した。

 さらにTEVAと共同で、ぜん息の発作を未然に防ぐことができるかというプロジェクトを進めているという。周辺地域に住んでいる人のデータをWatson Cloudに集約し、ぜん息のリスクがどれほどあるのかを計算、ぜん息の発作が起こりそうなタイミングでスマートフォンにアラートを出すというものだ。

 薬を販売している製薬会社が、薬の販売から病気を予防するソリューションに舵を切ろうとしている様子は、医療の役割が変わりつつあることを感じさせる。がん研究もそうだが、Watsonをはじめとする人工知能の普及によって、医療ビジネスは「処置」から「予防」へと主戦場が変わっていくのだろう。

photo ぜん息の発作が起きそうなタイミングでスマートフォンにアラートを出すという予防プロジェクトを進めているという
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