塩谷氏がCRMを行うにあたって、まず取り組んだのは、「デジタルCRM」構想に基づく会員データの統合だ。これまでのCRMはID-POSデータをベースにしていたが、購買者のうち、コミュニケーションをとれる顧客が限られ、CRMの対象が小さかったことが課題だった。
「デジタルCRMで目指したのは、Facebookで『いいね!』をしたとか、アプリに送ったクーポンを開封したとかといった、購買前後の行動履歴が分かること。デジタル世界での行動履歴をまずは把握し、対象を広げた上で購買結果であるID-POSデータも統合することを描きました」(塩谷氏)
デジタルCRMの実現に向けて、メール配信をコントロールするマーケティングオートメーションツールに加え、DMP(Data Management Platform)の導入も行ったという。特にDMPでは、将来的にWebサイトやアプリ内での行動のみならず、SNSのファン、Webプロモーション実績などといった情報も活用できるイメージを持っている。
こうしたID統合や基盤構築の取り組みは、地味かつ効果が見えにくいことから、経営陣への説明に苦慮するケースが多い。塩谷氏もまたROIの算出には苦労したとのことだが、顧客を知るという目的に対する理解はあったため、話がスムーズに進んだそうだ。
「ID統合や基盤構築は時間も費用もかかります。すぐに効果が出るわけでもなく、利益につながる構造も複雑であるため、ROIを算出することは難しいのです。しかし、会社として『お客さまを知りたい』という理想を目指す点については、すぐに理解が得られたのは大きかったですね」(塩谷氏)
情報システム部門との調整も難しかったという。やりたい施策に対して、運用やセキュリティなどの課題はどうしても出てくる。そのため、まずは公式アプリのリニューアルなど、インフラに影響が少ない施策から進めていったそうだ。そこで実績が出たのち、会社全体の課題として「お客さまを知りたい」というメッセージを出し、徐々に会社全体を巻き込んでいったのだという。
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