チャットツールの導入を含め、組織が変化する際には、「ハード」と「ソフト」の両面で阻害要因が生まれます。ハードというのはいわば“仕組み”の話。例えば「紙ベースの申請が多い」「情報漏えいの可能性があるため、パブリック型のシステムを利用できない」といった項目が挙げられます。目に見えるテーマであるぶん、VSMなどを使うことで原因を究明しやすく、改善策も検討しやすいのが特徴です。
一方のソフトというのは、主にマインドを中心とした話です。「新しいものに対するモチベーションが低い」「メールに慣れ過ぎている」といった話で、目に見えないものであるため、原因の究明や改善策が立てにくいという特徴があります。
この2つは、改善に要する時間にも大きな差があります。ハードの阻害要因は、仕組みを変えればすぐに効果が見えます。例えば、パブリックシステムが利用できない環境を改善するには、社内環境に同様のシステムを作ればよいですし、セキュリティ課題を解決すれば、パブリック環境を利用できる可能性もあります。
しかし、ソフトの阻害要因はそう簡単にはいきません。今までずっとメールで業務を行ってきた人に対して、「チャットツールを導入したので、メールから移行してください」と言っても、すぐに業務を移管することはできないでしょう。
それだけではありません。ツールを柔軟に使いこなせる人が重要な内容をチャットでやりとりし始めると、皆が24時間365日メッセージのやりとりに注意を払うことになり、慣れない人は“チャット疲労”に陥る恐れがあります。特に組織が大きくなってしまった後では、ソフト側の要因に手を付けられなくなり、ひいてはDevOpsに必要な、改善のサイクルが回せなくなってしまいます。
このように、新しくツールを導入するときは、ハードとソフトの阻害要因を十分理解し、特にソフト側の要因を回避する方法を検討する必要があります。導入に失敗する企業は、このソフト側の阻害要因をクリアできていないケースが多く、これを解決するには、開発者や運用者だけでなく、ビジネスメンバーも含んだ共通の価値観が必要になります。
開発者や運用者の立場で言えば、ソフトの阻害要因を減らすことに重きを置き、みんなと情報を共有できる場を創ることを意識する必要があります。そういった場の提供としてSlackは、誰もが使いやすいインタフェースや、コミュニケーションの肥大化を防ぐチャンネル機能、そして、細かくカスタマイズできる通知機能に注目が集まっています。
HPEでもこうしたチャットツールに注目しており、Slackと同様の機能を持ったオンプレ型のチャットツール「Mattermost」とパートナーシップを組み、エンタープライズ向けのChatOpsを展開しています。
ツールの各機能を駆使するだけでなく、誰もが利用できる環境づくりを意識することで、自然とチーム間の意識を合わせられることが、DevOpsにおける真の“コラボレーション”だと考えます。日々の意識を変えながら、ぜひ皆さんも身近な組織の変革に取り組んでみてください。
楽天株式会社にて国際ECサービスのインフラ部門に入社。主にオープンソースを利用したインフラ基盤やプライベートクラウドの設計、構築、運用を担当。
その後、日本ヒューレット・パッカードにて、金融系システムのプロジェクトリードを経験。仕事に従事しながらグロービス経営大学院でMBAを取得し、現在はテクニカルアーキテクトとしてDevOpsやクラウド、Deep Learning分野をはじめとした、オープンソースソリューションの提案、コンサルティングおよび構築デリバリーを担当している。
また、これまでの業務経験を生かし、教育トレーニングの講師やオープンソース勉強会のリード、アーキテクト育成活動など幅広く活躍している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.