新たなサービスを生み出すために必要なものとして、クリエイティブな発想が必要――というのはよくある話です。発想というのは、個人の能力に依存するイメージが強いですが、実はどのようなアイデアも、それを見える形にするまでには、いくつかのプロセスを踏む必要があり、それは働く環境や組織の仕組みに大きく依存しています。
つまり、普段と同じような会議を何度行っても、既存のマーケットを打破するほどのビジネスは生まれません。これは何も“破壊的イノベーション”といったような大それたことではなく、普段のコミュニケーションの中で、みんなが楽しくアイデアを発散できるような環境がなければ、何も変わらないという簡単な話です。
特に効率化を目指してきたIT業界では、会議という場においても、全員の意見を集約して、結果を出すプロセスが身にしみています。そのため、意見を発散させて、自分のアイデアをみんなで共有することに、抵抗感を持っている人がどうしても多くなっています。
まして、抵抗感だけではなく、時には相手を否定することから入ってしまう経営陣やマネージャーも少なくありません。アイデアを出し合う場では、まずはお互いの失敗を認める意識をもち、それぞれの発想を組み合わせて、新たな可能性を見つけるといった環境づくりが、クリエイティブな組織を作り出すカギでもあります。
そういったコミュニケーションを行う場として、エンジニアの間では「Advent Calendar」というイベントが毎年12月に開かれています。元来、Advent Calendarとは、クリスマスまでの日数を数えるためのカレンダーですが、その文化になぞらえて、12月1日から25日まで、担当者が1日に1つずつブログ記事を投稿していくという、エンジニアならではの娯楽イベントです。
記事の内容は、特定のプロダクトの詳細技術から、ソリューションの動向やポエムまで、多種多様なカテゴリが用意されていますが、こういった場があると、今まで触れてみたことがなかったプロダクトを発見したり、自分の仕事内容とコラボレーションを始めたりするきっかけを作ることができます。
さらに近年では、クリエイティブな要素を取り入れようと、企業内の担当エンジニアが技術を外に向けて発信していくという企業カレンダーも見かけます。
これは単にブログを執筆するという個人的な場でなく、初心者であろうが上級者であろうが、お互いのブログを楽しみ、チームとして意見をシェアするという一連の仕組みから、アイデアを生み出す環境を作っているということです。半分ゲーム感覚、半分強制的な環境で、意見を交換し合うことで、新規性の高いアイデアを生む起爆剤ともいえるでしょう。
Advent Calendarは作成サービス(ADVENTARなど)もあり、誰でも簡単に参加できます。興味のあるテーマのカレンダーから空いている日付に「この日に書きます!」と記事公開日を登録するだけでOK。企業内でアイデアを出す前の練習としてはうってつけです。
前回の記事では、組織が変化するときに起こる阻害要因として「ハード」と「ソフト」の2種類があることをお話ししました。このテーマもまた、個人の価値観が絡み、短期間では変わりにくい「ソフト」側に分類される課題です。この問題に目を背け、DevOpsというソリューションだけを求めても、決して効果は上がらないでしょう。
一見、ITとは関係ないようなところにも、クリアすべき課題があるかもしれない――。その視点でいま一度、組織を見直してみることが大切なのです。
楽天株式会社にて国際ECサービスのインフラ部門に入社。主にオープンソースを利用したインフラ基盤やプライベートクラウドの設計、構築、運用を担当。
その後、日本ヒューレット・パッカードにて、金融系システムのプロジェクトリードを経験。仕事に従事しながらグロービス経営大学院でMBAを取得し、現在はテクニカルアーキテクトとしてDevOpsやクラウド、Deep Learning分野をはじめとした、オープンソースソリューションの提案、コンサルティングおよび構築デリバリーを担当している。
また、これまでの業務経験を生かし、教育トレーニングの講師やオープンソース勉強会のリード、アーキテクト育成活動など幅広く活躍している。
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