マーケティングのプロがIT部門にも関わっているオイシックス・ラ・大地のCMTと、クックパッドの情シス部長が、ITとビジネスの在り方について語り合う本対談。後編は全体最適の視点に立ったIT戦略の重要性と、ビジネスを加速させるシステムの在り方に関するテーマで話が進んだ。
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クラウド、モバイル、IoT、AIなどの目覚ましい進化によって、今やビジネスは「ITなしには成り立たない」世界へと変わりつつあります。こうした時代には、「経営上の課題をITでどう解決するか」が分かるリーダーの存在が不可欠ですが、ITとビジネスの両方を熟知し、リーダーシップを発揮できる人材はまだ少ないのが現状です。
今、ITとビジネスをつなぐ役割を果たし、成功しているリーダーは、どんなキャリアをたどったのか、どのような心構えで職務を遂行しているのか、どんなことを信条として生きてきたのか――。この連載では、CIO(最高情報責任者)を目指す情報システム部長と識者の対談を通じて、ITとビジネスをつなぐリーダーになるための道を探ります。
1975年福井県生まれ。2001年から世界一周の旅に出た際の旅日記が人気。帰国後、旅の本を出版して、ECの世界へ。各社でEコマースを10年ほど経験して、2013年末、前職のドクターシーラボを退社。南極などを旅して、2014年6月帰国。現在はオイシックスのCMT(チーフマーケティングテクノロジスト)として働きながらシンクロを設立。シンクロでは、CMOのアウトソース事業として大手通販、スタートアップの企業など数社のマーケティングを支援したり、企業と提携してデジタル事業を協業している。
国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年から海外を含む基幹システムを刷新する「5並列プロジェクト」を率い、1年半でシステム基盤をシンプルに構築し直すプロジェクトを敢行した。2018年、AnityAを立ち上げ代表取締役に就任。システム企画、導入についてのコンサルティングを中心に活動している。システムに限らない企業の本質的な変化を実現することが信条。
オイシックス・ラ・大地で執行役員CMT(チーフマーケティング テクノロジスト)を務める西井敏恭氏と、クックパッドのコーポレートエンジニアリング部で部長を務める中野仁氏が、ITとビジネスの在り方について語り合う本対談。
マーケティング部門とIT部門の関係性や、攻めと守りのITに言及した前編に続き、後編では、全体最適の視点に立ったIT戦略の重要性と、ビジネスを加速させるシステムの在り方に関するテーマで話が進んだ。
2.統合のポイントはバックエンドの共通化とフロントエンドの個別化?
3.「フロント部分を柔軟にカスタマイズできるようにする」ことの重要性
4.北米勝ち組企業が好んで採用するデファクトスタンダード製品は、どこが優れているのか
中野: クックパッドでも、基本的には内製でシステム開発を進めていて、直近の約2年間で基幹システムを一通り刷新しました。
かつては、部署ごとに異なるシステムを導入していたのですが、その結果、サイロ化されたシステムが乱立してしまい、互いにデータの連携がまったくできない状態に陥っていたのです。これでは今後、グローバル市場へ進出する際に不可欠な「システムのスケーラビリティ」を確保できないため、思い切ってクラウド型ERPパッケージを導入して人事、会計などの基幹システムを統合しました。
ただ現在、データは標準化できたものの、それらを活用したWebマーケティングやCRM、SFAといった「攻めのIT」の分野はまだこれからで、顧客管理の領域にはまだ、あまり手を付けられていません。今後、「顧客情報をどうやってサービス開発やマーケティングにつなげるか」というところに踏み込まなければなりません。
西井: そこはとても難しい課題ですよね。私たちも今、まさに同じような問題を抱えています。当社はここ数年間で、2回の大きな経営統合をしていますから、まずは、各社でばらばらだったバックオフィスを統合する必要がある。しかも、ビジネスモデル上、配送システムや物流管理を含むので、正直なところ、とても大変です。
物流拠点も、オイシックスのときは1カ所だけだったのが、経営統合で一気に数が増えました。各社で配送も在庫も、生産者(農家)に関するデータの持ち方も異なり、そもそもの仕組みを構築した際の思想も全く違います。もともとのプロダクトのSKU(Stock Keeping Unit)レベルで生産者をひも付けようと思うと、生産者ベースでひも付けているデータをどう処理していいか――といったような、さまざまな課題に直面することになります。
現状では、例えば「オイシックス」と「らでぃっしゅぼーや」で共通の生産者がいる場合、お客さまはそれぞれに対して個別に注文しなくてはなりません。本来なら、たとえブランドが違っても同じ会社が運営しているのですから、まとめて注文できるようにするべきです。もちろん、現状のまま別々にバックオフィスを管理するという手もなくはないですが、それでは経営統合によるシナジー効果は期待できません。そこで、今後、数年間でバックオフィスの統合を目指しています。
中野: 統合を避けたり、適当なところでお茶を濁せば楽なのですが、それではバックオフィスに掛かるコストも数倍に跳ね上がってしまいますからね。しかも、統合は激痛を伴うのが常で、そのような“火中の栗”は、できれば先送りしたくなってしまう。旗振り役は“針のむしろ”ですから(笑)。ただ、Webサービスならともかく、原価率が高い業種で先送りすると、先々がとても厳しくなりますね。
西井: 本当にそうです。そこをやり切ったら、かなり統合のメリットが出ると思っていますが、簡単ではありませんね。
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