リコーの全力投球RPA、数万人の従業員を動かした7つの起爆剤(2/2 ページ)

» 2020年01月09日 10時00分 公開
[吉村哲樹オフィスティー・ワイ]
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ガバナンス――クリエーターの資格試験を設ける

 ボトムアップによる現場主導の活動を中心としつつも、それだけでは現場ごとに勝手にRPAの開発や運用をばらばらに進めてしまい、ITガバナンスを維持できなくなってしまう。そこで幾つかの新たなルールや仕組みを設けた。例えば、現場でRPAのロボットを開発、利用したいと考えた従業員には、まず社内の教育コースを受講してもらい、試験をクリアした人のみ、ロボットを開発できる「クリエーター」に認定する。そのクリエーターがポータルサイトに自動化したい業務のテーマを登録し、そのテーマに基づいたロボットを登録して初めて、UiPathの開発ライセンスが付与されるという仕組みを作った。

 その後も、CoEによってロボットの開発が順調に進んでいるかどうかを順次チェックし、もし2カ月以上たってもロボットが完成する見込みがないようであれば、開発者本人と相談の上、場合によっては開発の中止を勧告する。こうした運用ルールを徹底することで、野良ロボットといったガバナンス上の問題の発生を抑止する。

教育体系の構築と教育の実施――管理職にプロセス改善の基礎力を養わせる

 前項でも説明したように、RPAのロボットを開発するには、社内で実施されている教育コースを受講して資格を取得する必要がある。しかし、RPAの開発スキルを習得するだけでは業務プロセス改革は実現できない。それ以前に、まずは「現状を見極める力」「課題抽出力」「改善提案力」といった、業務のプロセスを改善するために必要な力を養う必要がある。

 同社は、そのための教育体制も新たに整備した。具体的には、「KAIZENアシストガイド」と名付けた3冊のガイドブックを作成して社内に公開したり、「企業プロセス改革活動説明会」を定期的に開催したりして、主に管理職に向けて業務プロセス改革に関する教育や啓発を行ったという。

開かれた情報基盤とコミュニティー、社内RPA相談窓口の設置

 活動に関するあらゆる情報は、極力オープンにして全社で共有できるようにした。そのための仕掛けとして、「RPA Portal─業務プロセス改革 Village」という社内ポータルサイトを設け、RPAに関するあらゆる情報を集約して誰でも閲覧できるようにした。それと同時に、RPAに関する個別の相談や困りごとにも対応できるよう、SNSを活用した専用のコミュニティーを設け、問い合わせや各種情報交換などを行えるようにした。

RPA Portal─業務プロセス改革 Village

継続活動のための“称賛”と“共有”――社内イベント、資格認定制度がモチベーションに

 同社は、活動が一過性のものに終わらず、現場に“体質”としてきちんと根付かせる取り組みにも力を入れる。一例として「RPA Open College」と呼ばれる社内イベントを半期に1度開催しているという。RPA Open Collegeとは、RPAを使った業務プロセス改革のさまざまな社内事例の展示、発表を行う場。同じく改革に取り組む者同士の情報交換の場になると同時に、成功事例を大々的に取り上げて称賛することで活動継続のモチベーションを喚起することを狙う。

 また、前述した「RPAクリエーター認定制度」という社内制度も、モチベーションを高める上で効果的に機能している。クリエーター資格には「クリエーター」「マスター・クリエーター」「プロフェッショナル・クリエーター」の3段階があり、それぞれの資格に応じて色が異なるネックストラップを支給している。こうした制度を運用することで、現場のさらなるモチベーションアップを図る。

RPAクリエーター認定制度

ROIは気にしない――現場の働きがいを重視した結果は?

 リコーではこれら各種施策を、2018年4月からグループ全体で一斉にスタートした。取り組みをはじめて既に1年半ほどが経過したが、全ての施策は当初からリコー社内で自前で運営しているという。

 「当社の取り組みは、あくまでも現場の改善を目的としていますから、『自分たちで全て行うこと』が大前提です。教育コースなど事業者の力を借りることなく、企画し運営しています。その分、CoEは限られた人数で多くの仕事をこなさなくてはなりませんが、今では個々のメンバーにかなりノウハウがたまってきたので、スムーズに施策を回せるようになってきました」(中島氏)

 その結果、この1年半の間に国内外のグループ会社29社でRPAが導入され、教育コースの受講者数は1000人超、RPA導入による工数削減時間は年間3万7000時間にも上った。ただし浅香氏によれば、「こうした定量的な効果はあまり重視していない」という。

 「CoEはROIを意識していますが、活動をしているクリエーターには意識させていません。たとえ月30分程度の時間短縮効果しかない作業であっても、それが自動化されることで月末の忙しさが少しでも解消され、従業員がストレスなく働けるようになるのであれば、RPAを適用することを推奨しています。従業員が自分の困りごとを自分の手で解決する機運が高まっていけば、さらなる改善へのモチベーションも自ずと湧いてくるでしょう。その結果、全社的な『働きがい改革』が実現され、最終的に従業員が『はたらく幸せ』を実感できるようになることが最終的なゴールです」(浅香氏)

 実際にRPAは、ホワイトカラーの定型作業のみならず、設計や生産の現場における実験といった直接業務でも積極的に適用され、従業員の働く環境をより良いものにしているという。

 「設計や生産の現場では、製品の耐久性を調査するために、燃焼テストをしています。製品にかける電圧を少しずつ上昇させて、結果を記録することを繰り返すのですが、そのパラメーターを設定し、実験データを取得する作業をRPAで実行しています。作業者は、RPAが処理を代行している間に、他の作業ができるようになったと喜んでいました」(浅香氏)

 今後はRPAによる改革の波に「さらに多くの従業員を巻き込みたい」と同氏は抱負を述べる。そのためには、現在のボトムアップ中心のアプローチに加え、組織横断型のトップダウンのアプローチも取り入れる必要があり、「CoEが果たす役割はさらに重要性を増すだろう」とも語った。

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