サステナビリティは「ビジネス」になり得るのか――富士通の活動から探るWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2022年10月11日 12時30分 公開
[松岡功ITmedia]
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企業に求められる「成長と持続可能性の両立」

 時田氏はSXを進める企業の具体例として、大手化学メーカーの帝人によるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に向けた取り組みと、スウェーデンの大手測量機器メーカーであるHexagon Safety, Infrastructure & Geospatial division(以下、ヘキサゴン)によるデータを活用した都市づくりについて次のように紹介した。

 帝人については「帝人と富士通は、さまざまな事業を通じて社会課題を解決するという互いの取り組みに深く共感し、それぞれの強みである素材とデジタル技術の化学反応を起こすことで価値の提供を目指す共同プロジェクトを開始した。帝人が持つ素材の温室効果ガス排出量の算定やリサイクルに関する知見と、当社のブロックチェーン技術を用いてプラットフォームを構築する。そして、メーカーやリサイクルなど、関係する企業のバリューチェーンにおける環境負荷に関するデータを取集し、活用できるようにする。これによって、リサイクル素材の環境価値の信頼性を高めていく」とのことだ(図2)。

図2 帝人が取り組むリサイクル素材の環境価値化プラットフォームのイメージ(出典:富士通の発表資料)

 ヘキサゴンについては「地図や都市のデータに基づくシミュレーションサービスをグローバルに展開しているヘキサゴンのIoT(モノのインターネット)プラットフォームによって、多様なデータを基に都市を三次元で可視化するツールと富士通のデジタルツイン技術を組み合わせ、交通や物流、都市インフラや防災など、スマートシティーに関するモデルを構築する。それを基に都市情報に関するリアルタイムダッシュボードなど、課題解決に必要なソリューションを企業や公共機関に提供する。リアルなデータを活用した自然災害の高度なシミュレーションによる防災機能の強じん化や、配送ルートの最適化による消費エネルギー削減などの早期実現を目指す」と説明した(図3)。

図3 ヘキサゴン社と富士通の提携の全体像(出典:富士通の発表資料)

 時田氏は講演をこう締めくくった。

 「次世代を担う人たちは生まれた時から社会課題に直面し、それを『自分事』として捉えている。次世代が力を発揮する場は、社会課題の解決に取り組む企業にこそある。全ての企業が社会課題を解決する力を持っており、それらの企業が共感を持って力を合わせ、ともに取り組むことが求められている。その姿勢が企業の持続的な成長につながるものと確信している」

 富士通のメッセージはまさしく「デジタル技術を活用して、企業もサステナビリティの取り組みをビジネスにして社会課題を解決していこう」というものだ。筆者は「その姿勢が、企業の持続的な成長につながる」という言葉が時田氏のメッセージの核心だと受け止めた。

 ただ、重ねて言うが、サステナビリティは社会課題の解決に向けた取り組みではあるものの、ビジネスとして成り立つ保証はない。ビジネスにできなければ、企業の持続的な成長は見込めない。岸田首相の冒頭の言葉にあるように、成長と持続可能性をどう両立させていくか。企業にとってはこれからが正念場だ。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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