社長や上司とは時に(常に?)むちゃぶりをする生き物です。いきなり「売り上げを上げろ」と言われたら、あなたは何から取り掛かりますか。「そんなの無理に決まっているだろ」と言い返すのも一つのアイデアですが、データ活用で解決するための方法を筆者と一緒に探ってみませんか。
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今やデータ分析はある特定の専門職だけでなく一般のビジネスパーソンに求められるスキルの一つとなりつつあります。
「そうは言っても、何から手を付ければ良いか分からない」「意気込んでデータ活用の本を買ってみたものの、“積読”(つんどく)になっている」という方に向けて、“やる気をスキルに変えるための思考術”をお届けします。
「思考なんて回りくどいものではなく、データ活用を実践するためのツールを教えてほしいんだ」とおっしゃる方にこそお薦めしたい連載です。目まぐるしく新製品が登場したりアップデートが繰り返されるツールを上手に活用するためにも、一度身に付ければなかなか錆びることのない思考方法に接することで、スキルとともにご自身の仕事の進め方をアップデートするすべが見つかるかもしれません。
ITmedia エンタープライズの読者の皆さん、こんにちは。
連載1回目はやや脱線して長文になってしまいました。でも、とっても重要な前提なので「データ活用の誤解」について知らない人は、ぜひご覧くださいね。データ活用において最も重要なことは「筋道を立てる」――つまり、ストーリーをつくって関係者と共有するということです。これを読んで「よく理解できないな」と思った人は、前回の記事(統計リテラシーのない上司ほど惑わされる「3つの迷信」)を参照ください。
さて、今回はデータ活用における因数分解について取り上げます。
因数分解とは、数学的には「対象となっている式を、積(掛け算)の式として書き表す」ということです。英語では積は「Product」、因数は「Factor」と言います。
ここでは「ビジネス的に何かの原因になり得るデータを組み合わせた式」というぐらいのイメージで「因数」と呼びます。
つまり、何かを因数で分解するときに、その要素がAとBであれば、分解式がA+BでもA×Bでも、A÷Bでも、本稿においては「ヨシ」とします。
「AとBが何かの計算式によって、結果の数値になる」というイメージです。
例えば、利益を因数分解するとしたらどうなるでしょう?
もちろん、「利益=売り上げ−コスト」ですよね。これは会計的な原理原則ですので、異論のある人は少ないと思います。
では、「売り上げ」を因数分解するとどうなるでしょう?
これは、いろいろな考え方がありそうです。
売り上げ=既存売上+新規売上だよね
これは正解です。
売り上げ=売上単価×売上数でしょ
これも間違いではありません。
売り上げ=国内売上+海外売上なんじゃないかな
という考え方も、グローバル企業ではよくある話です。
読者の皆さんがどこまで視野に入れているかによって「正解」は違ってくるわけです。
例えば、あなたが営業所をスーパーバイジングしている立場であれば、A営業所売上+B営業所売上+……、営業担当者を管理するラインマネジャーならAさん売上+Bさん売上+……になるかもしれません。
あなたが事業部長で、ストック型のサブスクサービスの責任者であれば、契約単価×契約数量ー解約単価×解約数量を見ているでしょう。
あなたが経営全般を見ているトップマネジメントの立場であれば、既存+新規、国内+海外、本体+連結小会社などの販売駅の総和になるかもしれません。
つまり分解するときの目的や分解する人のポジション、視座によって分解式は変わることもあるのです。まずはこれを頭に入れておきましょう。
「利益を上げる」――。これは、全ての営利企業に課された最終ミッションでしょう。しかし、これだけをお題としてブレスト(ブレインストーミング)を実施すると、「人を減らす」「接待費とかタクシー交通費など無駄なコストを減らす」「不採算店舗を閉鎖する」といったアイデアが出がちです。これらは全て「部分最適」な考え方です。
昔、筆者がいた会社が大赤字になったとき、総務のスタッフが「カラーコピー厳禁」「タクシー利用厳禁」とふれまわったことがあります。これらは全て利益を構成する1つの因子からしか見ていないからこそ出てきたアイデアです。「利益はコストを減らすことで生まれる」という前提条件からスタートしているわけです。
しかし、「利益=売り上げーコスト」という前提から考えると、ある活動によって売り上げが伸びる期待とコストを減らす期待(比較的コストを決めてしまえば確実性は高いのですが)を両てんびんで考える必要があるわけです。
最初にやるべきことは、「利益を上げる」という目的に向かって、考えられる打ち手を網羅的に並べることです。
並べた上で、その企業やタイミングによって選択できる施策は変わるはずです。
あらゆる選択肢を並べるためには、ロジックツリーが良いでしょう。マインドマップでも構いません。1つの結果について、それを構成する因子に分解して眺めてみるのです。
以下は、その例です。特に正解というものはありません。業種や企業ごとに打ち手は異なるでしょう。大事なことは、まず先入観を捨て網羅することです(選ぶのは後で)。
さあ、あなたはツリーを作れたでしょうか。
図2では、「利益を上げる」という目的のための実施アイデアが13個並んでいます。
「宣伝費をかけて商品のプロモーションを行う」という施策は、コスト的にはマイナス方向(コスト増)ですが、売り上げ的にはプラス方向です。
「アフターサポート部門の人員を大幅削減する」という施策は、コスト的には確実なプラス(コスト減)ですが、売り上げ的にはマイナス方向です。
つまり、どのような活動も常に「正」と「負」両方の作用があるわけです。ここから先の選択は、まさに経営的な「意志」ということになります。データやロジックを用意するセクションの方々の役割は、まずこれを準備することです。
1. 「売り上げ」をどう考えるかは、分析者の立場によって変わる
2. 「どう利益を上げるか」は部分最適ではなく総合的に考えるべきだ。先入観を捨ててアイデアを網羅的に並べたロジックツリーを作ること
3. どのような施策にも「正」と「負」がある。どれを選ぶかは経営的な「意志」で決まる
前回の「筋道を立てる」と同様に、選択肢を網羅したあとに残されるのは「自らの意志」です。
プラスとマイナスの相反する選択の中で、どう考えるか。実現可能性を重視すれば、基本的にはコスト削減が勝つでしょう。しかし、「その方向性だけで、未来はあるのか」という質問にも答えなければなりません。
正解はない中で、必要なのは強い意志です。データ活用やアルゴリズムとは別の、ウエットな人間の感情がとても大切だと筆者は考えています。
知的生産研究家、起業家、上場企業の経営者。現在、DX支援クラウドを提供する株式会社ショーケース(東証3909)とリユースモバイル事業を運営する日本テレホン株式会社(東証9425)、2社の上場企業の経営者。
企業経営と並行し、新規ビジネス開発、働く人の生産性向上をライフワークとした執筆、講演活動などを行う。
自著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』(ソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)、『会社では教えてもらえない仕事がデキる人の資料作成のキホン』(すばる舎刊)がある。
著書一覧:https://www.amazon.co.jp/s?k=%E6%B0%B8%E7%94%B0%E8%B1%8A%E5%BF%97
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