「理屈は分かった。でも実際に取り組むのは不安だ」 そんなあなたに事例を紹介脱「丸投げDX」のための「デザイン思考」の使い方(4)(2/2 ページ)

» 2023年05月08日 08時00分 公開
[小原 誠ITmedia]
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事例2:NetAppにおけるFinOpsワークショップ

 NetAppはネットワーク接続型ストレージ(NAS)専業ベンダーとして1992年に創業し、現在はハイブリッドクラウドやマルチクラウド環境の運用管理にも焦点を当ててクラウドコストの最適化(FinOps)のソリューションも提供しています。

 ストレージ製品が情報システムの構成要素として既に確立し需要も明確なのに対し、FinOpsは国内でも比較的新しい考え方です。提案活動では顧客のクラウド運用管理の理解や見直しに一定の踏み込みが必要になります。

 そのため、FinOpsソリューションの提案、特に初期段階では製品中心の「プロダクトセリング」ではなく、顧客の悩みの理解と価値の訴求「ビジョンセリング」「インサイトセリング」的なアプローチが重要です。製品中心のアプローチでは話に広がりや深さが生まれず、次の行動につながりません。

 NetAppでは座学とデザイン思考を通してFinOpsを学べる無償の「FinOpsワークショップ」を展開しています(図1)。参加者がFinOpsを理解するのと同時に、NetApp側は参加者の悩みをより深く理解し、NetAppのソリューションを訴求する「最初のきっかけ」になります。

 半日のワークショップではFinOpsやNetAppのソリューション紹介に加え、「Rose, Thorn, Bud」や「Round Robin」などデザイン思考の手法を利用した議論を行います。

 よくあるプレゼンテーションやQ&Aといったセミナー形式では本音を引き出しにくいのに対し、デザイン思考の手法を組み合わせることで議論が活発になり、一体感が生まれます。ワークショップは1社単独数人という小規模から複数社合同十数人という大規模で行うこともあり、参加者同士で組織の垣根を超えた相互理解が進み、新たな発想が得られます。

図1 FinOpsワークショップの様子(NetApp撮影)

実践に向けた「コツ」

 デザイン思考の活用事例を2つ紹介しました。

 デザイン思考と聞くと「新たな事業アイデアの発想」「ユーザー体験の設計」といった場面で限られた人が使う特殊な考え方と受け取られがちですが、実際にはさまざまな場面で取り入れられます。

 最後にファシリテーターとしてデザイン思考を利用した議論やワークショップを運営する「コツ」を幾つか紹介します。

多様性を生かそう

 豊かな発想を得るには多様性が大切です。役職や組織、年齢、性別などの違いを超えて「日々の気付き」「思い」を共有し議論することで、問題の本質が理解でき、新たな解決策を思い付きます。誰をどのテーブルに配置するか事前に考えましょう。

心理的な安全性を確保しよう

 デザイン思考では参加者の「思い」を大切にします。そのため、気持ちをオープンにしやすい環境づくりが大切です。例えば「ラフな服装」「明るく清潔感のある普段とは違った会場を選ぶ」「BGMを流す」など、緊張を解くことを意識しましょう。また、初めて同士の参加者で議論する際は、冒頭にアイスブレーク(ちょっとしたゲームや運動など)を設けるのも有効です。

 デザイン思考の議論は短時間で集中して行うため疲れやすいです。テーブルにチョコレートやクッキー、蓋付きの飲み物などを用意しておくと良いでしょう。会話も弾みます。

ファシリテーターは入念に準備をしよう

 デザイン思考での議論は一見、和やかな雰囲気で進んでいるようにも見えますが、その裏でファシリテーターは入念な準備をしています。必要な文房具や会場の手配はもちろん、「どのように時間を配分し議論を進行するか」「参加者からどのような反応が想定され、どう対応するか」といったことも事前に想定しておきましょう(「型」にハメ過ぎる必要もありませんが)。

 複数のテーブルに分かれて議論を行う際は、各テーブルにテーブルファシリテーターを配置することが望ましく、彼らとの意識合わせも大切です。

まとめ

 本連載では全4回にわたり、デザイン思考を身近な思考法として紹介しました。DXという言葉が聞かれるようになり久しいですが、“真の変革”を実現するには「技術」だけでなく「人」や「プロセス」への働きかけが大切で、それらと向き合うことは避けられません。そのようなとき、デザイン思考は効果的なツールになります。

 まずはちょっとした議論の中でデザイン思考の手法を取り入れてみてはいかがでしょうか。気楽に始めてみましょう。

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