「不真面目DX」の筆者が、「不真面目」についてマジメに考えてみた(最終回)「不真面目」DXのすすめ

全25回にわたって連載してきた『「不真面目」DXのすすめ』は本稿で最終回を迎えます。「不真面目DX」という少し風変わりなタイトルに込めた筆者の思いとともに、「不真面目」になりきれない読者にメッセージをお届けします。

» 2023年06月09日 09時00分 公開
[甲元宏明株式会社アイ・ティ・アール]

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この連載について

 この連載では、ITRの甲元宏明氏(プリンシパル・アナリスト)が企業経営者やITリーダー、IT部門の皆さんに向けて「不真面目」DXをお勧めします。

 「不真面目なんてけしからん」と、「戻る」ボタンを押さないでください。

 これまでの思考を疑い、必要であればひっくり返したり、これまでの実績や定説よりも時には直感を信じて新しいテクノロジーを導入したり――。独自性のある新しいサービスやイノベーションを生み出してきたのは、日本社会では推奨されてこなかったこうした「不真面目さ」ではないでしょうか。

 変革(トランスフォーメーション)に日々真面目に取り組む皆さんも、このコラムを読む時間は「不真面目」にDXをとらえなおしてみませんか。今よりさらに柔軟な思考にトランスフォーメーションするための一つの助けになるかもしれません。

「『不真面目』DXのすすめ」のバックナンバーはこちら

 筆者はDX(デジタルトランスフォーメーション)とは「デジタルテクノロジーを駆使してこれまでなかった新しいビジネスや業務を創ること」だと考えていますが、国内企業のDXの多くが、このような本来の目的を忘れています。DXが「やらねばならぬこと」になってしまい、加えて以前から存在する「普通のIT活動」とさほど変わらないものになっています。

「マジメ」は駄目なのか? 

 DXの教科書が溢(あふ)れかえって、DXでワクワクすることがなくなっている今の日本の状況に警笛を鳴らす意味で『「不真面目」DXのすすめ』という連載を続けてまいりました。今回はその最終回となります。筆者が「不真面目DX」というタイトルに込めた意図をくみ取っていただければ幸いです。

 「日本人はマジメだ」とよく言われます。筆者もその意見に賛成です。人それぞれに個性があるので、日本と諸外国の国民性を簡単に比較できないことは筆者も十分に理解しています。しかし、海外の人々と接したことがあれば、国や地域によって人の考え方や行動パターンがずいぶん違うと感じることも多いのではないでしょうか。海外の人々の自由さや、自分自身や家族を中心とした人生設計など、日本人の私に見習うべき点が多かったのも事実です。

 「ホフステードの6次元モデル」というオランダの社会心理学者であるホフステード博士が1965年から50年間調査を続けて導き出した異文化を理解するための指標があります。6次元を構成するのは「権力格差」「個人主義、集団主義」「男性性、女性性」「不確実性の回避度」「長期志向、短期志向」「人生の楽しみ方」という6つの要素です。

 この研究の結果によると、日本人は「男性性」「不確実性の回避度」「長期志向」が他国よりも顕著な傾向にあります。「男性性」とは仕事優先、かつ業績主義で欠点修正を求める社会を表しているので、「仕事中心でマジメ、安定志向な日本人」とまとめても良いでしょう。この結果に違和感を持つ人は少ないのではないでしょうか。

最近の若い人々を見ていると、少しはこの特性が変化するかもしれないという期待があります。ただ、就職先として公務員は非常に人気が高く、その主な理由として「安定」を挙げる人が多いことから考えると、当分の間、日本人の特性は変わらないのかもしれません。

「マジメが一番である」という時代の終焉

 筆者は戦争を経験した両親に育てられ、「マジメが一番である」と教えられてきました。しかし今の時代「マジメに過ごしてさえいれば幸せになれる」というのは幻想かもしれないと考えています。副業への理解が進み、ハラスメントは駄目なこととされ、転職が当たり前になった現代の日本では、人生にはいろいろな選択肢があることを理解して自分の人生を楽しむべきなのです。

 もちろん、「マジメ」に生きることは悪くなく、むしろ素晴らしいことです。問題は、マジメに生きるために、ある時点で自分が決めた評価基準や目標を、時代や環境の変化に応じて柔軟に変更できないことにあります。

 学生時代は自由奔放な考え方をしていた人が、企業に何年も勤めているうちに硬直したマインドセットになってしまったケースを筆者は多く知っています。それらの人々の多くは仕事を楽しむことを忘れてしまったように見受けられます。顧客や社会、環境変化の視点から考え方を柔軟に変えられれば、自分自身の基準や目標も容易に変更できるはずなのですが、それができない日本人が多いように思います。

マジメに「不真面目」に取り組もう

 マジメが日本人の特性なのであれば、それを大きく変えることは難しいでしょう。ですので、読者の皆さまにはマジメに「不真面目」に取り組んでいただきたいと願っています。ここでの「不真面目」とはテキトーに過ごすことを意味していません。

 これまでマジメ故に常識にとらわれていたのであれば、まず常識を疑うことから始めましょう。マジメ故に人の意見を聞くことを重視していたのであれば、自身の直感を信じるようにしましょう。マジメ故に何をするにもまず教科書を探す人は、最終的には自分で新しい教科書を作ることを目標にしてみましょう。マジメ故に同じような考え方を持つ仲間を多く持つことに注力している人は、自分自身そして個々人の個性を尊重してそれらを生かすことに注力してみましょう。

 「DX」というムーブメント自体は非常に素晴らしいものです。誰もが先進テクノロジーを駆使して、これまで誰もやっていないことに挑戦できる時代になっています。そして、それが実現できれば常識では考えられなかった成果が得られるかもしれないのです。マジメに「不真面目」に取り組む人が1人でも多くなれば、DXの成功事例が日本に溢(あふ)れるようになると筆者は心から信じています。

新連載のお知らせ

 2023年7月から本連載の筆者である甲元宏明氏の新連載「甲元宏明の『目から鱗のエンタープライズIT』」がスタートします(第1回はこちら)。

 国内企業のITコンサルティング経験豊富な同氏が、エンタープライズITのこれまでの常識やアプローチから脱してビジネスで成果を得るための秘訣(ひけつ)を伝授します。

 DXだけでなく、より広いテーマに切り込む新連載にご期待ください。

筆者紹介:甲元 宏明(アイ・ティ・アール プリンシパル・アナリスト)

三菱マテリアルでモデリング/アジャイル開発によるサプライチェーン改革やCRM・eコマースなどのシステム開発、ネットワーク再構築、グループ全体のIT戦略立案を主導。欧州企業との合弁事業ではグローバルIT責任者として欧州や北米、アジアのITを統括し、IT戦略立案・ERP展開を実施。2007年より現職。クラウド・コンピューティング、ネットワーク、ITアーキテクチャ、アジャイル開発/DevOps、開発言語/フレームワーク、OSSなどを担当し、ソリューション選定、再構築、導入などのプロジェクトを手掛ける。ユーザー企業のITアーキテクチャ設計や、ITベンダーの事業戦略などのコンサルティングの実績も豊富。

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