Microsoftが見解を公表 「AIは“現場仕事”をどう変えるか」

「AIは仕事をどう変えるのか」は、ホワイトカラーだけの問題ではない。AIの活用によって現場部門で働く担当者の仕事はどう変わるのか。Microsoftの見解を紹介する。

» 2023年08月16日 07時00分 公開
[田中広美ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 Microsoftは2023年8月9日(現地時間)、AI(人工知能)を利用したソリューションによって現場部門で働く担当者(フロントラインワーカー、あるいはエッセンシャルワーカー)の生産性が向上するという内容の記事を同社の公式ブログに投稿した(注1)。

AIは“現場仕事”をどう変える? 

 いわゆる現場部門で働くフロントラインワーカーはホワイトワーカーよりも数が多く、27億人に上る。多くの先進国で少子高齢化や将来的な労働者人口の減少が懸念される中、フロントラインワーカーの業務量をどのようにコントロールするかは大きな課題だ。

 Microsoftが実施した調査「Work Trend Index」(2023)によると、フロントラインワーカーの60%は「反復作業や雑務で有意義な仕事の時間を奪われていること」や「仕事を効率的にこなすために必要なリソースが十分でないこと」に「苦慮している」と回答している。

 フロントラインワーカーの50%が「仕事によって消耗し」、45%が「今後1年のうちに転職する可能性がある」と答えた。一方で、「AIは仕事に役立つ」と前向きに捉えているフロントラインワーカーは65%に上る。

 Microsoftによると、現在、Fortune 500企業(注2)の60%以上がフロントラインワーカーの支援に同社が提供するオフィススイート「Microsoft 365」を利用している。

 Microsoftが「AIによって変革される」としているフロントラインワーカーの仕事における3つの分野は次の通りだ。

  1. インテリジェントオペレーション
  2. 容易なコミュニケーション
  3. 信頼できる体験

(1)インテリジェントオペレーション

 現場を抱えるマネジャーは、チームのスケジュールが変動しやすかったり、複数のチームがあちこちに点在したりする中で、オペレーションの進行状況を把握するのに膨大な時間がかかっている。

 統合型クラウドプラットフォーム「Dynamics 365 Field Service」(以下、Dynamics 365)とAIアシスタント「Microsoft Copilot」(以下、Copilot)、電子メールの送受信やスケジュールを管理する「Microsoft Outlook」(以下、Outlook)、コミュニケーションツールである「Microsoft Teams」(以下、Teams)の統合機能によって、Microsoftは「点検や設置、保守の依頼などを担当するマネジャーを支援する」としている。

 これによってマネジャーは、チームやチームが働く場所に特化した重要項目のリストを素早く入手し、シフトをカバーしたり、入社したばかりの従業員を養成したりといった時間を要する作業を迅速化できる。

 Copilotを利用することで、Teamsのチャット履歴や、社内ポータルサイトを作成したり情報を共有したりする「SharePoint」、電子メールなどに含まれるデータを検索できる。また、Copilotに新たに提供される「Shifts プラグイン」を使って「Shifts アプリ」のデータを活用してプロンプトを表示したりインサイトを取得したりできるようになる。

 具体的には、OutlookやTeamsで顧客からクレームを受けたマネジャーが、Dynamics 365のCopilotを使って電子メールやチャットから得た情報を基に詳細情報を入力することで作業指示書の作成を効率化する。技術者の移動にかかる時間や空き時間、スキルセットなどの要素に基づくデータドリブンの推奨機能によって技術者のスケジューリングを最適化する。顧客から受け取ったメッセージへの回答案を生成することも可能だ。

 現場の技術者は、作業中にTeams の「ホームエクスペリエンス」で作業指示を確認し、詳細情報を共有できる。作業完了までに追加サポートが必要な場合は、「Dynamics 365 Remote Assist」にアクセスして、リモートで働くエキスパートとトラブルシューティングをリアルタイムに実施できる。

(2)容易なコミュニケーション

 Microsoftは企業文化は強固なコミュニケーションラインの確立から始まるとしている。コミュニケーションを取りやすい方法を確立することによって、従業員全体の帰属意識と目的意識が向上する。

 Microsoft 365で提供されている情報共有ツール「Viva Connections」の「Announcements」機能を使うことで、企業のコミュニケーション担当者は緊急性の高い連絡をフロントラインワーカーにリアルタイムに伝えられる。具体的には職務に応じて最新情報や安全ポリシーの変更などの通知内容のドラフトをAnnouncementsが作成し、ターゲットを設定した上で通知時間をスケジューリングできる。これらの操作はTeamsから実施可能だ。

 フロントラインワーカーは、モバイル端末のプッシュ通知やTeamsのホームエクスペリエンスにあるUI(ユーザーインタフェース)コンテナ「カード」を通じて通知を受け取る。

(3)信頼できる体験

 フロントラインワーカーの多くは複数のデバイスを駆使して仕事し、シフト終了後にデバイスを引き継ぐことがある。

 Microsoftは、現場で働く従業員向けに提供されているクラウドPC「Windows 365 Frontline」を安価に提供する。ユーザーは勤務場所や利用するデバイスに関わらずパーソナライズされたクラウドPCにアクセスできる。Microsoftは「シフト勤務やパートタイム勤務の従業員がログインした瞬間から生産性が向上する」としている。

 モバイルデバイスとモバイルアプリケーションを管理する「Microsoft Intune」とID管理ツール「Microsoft Entra ID」を使えば、「Android」と「iOS」でバス向けの共有デバイスモードによるTeamsやOutlook、ローコード開発ツール「Power Apps」をシングルサインオンで利用できる。

 エンドポイント管理ソリューションついて「SOTI」や「VMware Workspace ONE」を利用している企業は、共有デバイスモードでMicrosoft Entra IDにAndroidデバイスを登録できるようになった。

 Microsoftは「(AIによる)イノベーションは効率性を改善し、顧客体験を向上し、迅速な意思決定を可能にする」としている。

(注1)Save costs and drive efficiency with next-generation AI on the frontline with Microsoft Teams

(注2)米国の雑誌『Fortune』が毎年発表している「世界の収益が高い企業トップ500社」にランクインした企業のこと。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ