2023年もあとわずか。2024年、企業のIT活用はどのように変化して進化していくのか。企業の基幹業務を担うERPをはじめとするエンタープライズアプリケーション市場をリードするSAPジャパンの鈴木洋史社長の話から探った。
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「2023年はERP(統合基幹業務システム)においてもクラウドでの利用が当たり前になってきた。2024年はそれを踏まえて“ビジネスAI元年”になる」
こう語るのは、SAPジャパン代表取締役社長の鈴木洋史氏だ。「2023年の総括と2024年の戦略」をテーマに単独取材の機会を得た。その回答を端的に表したのが上記の発言である。
鈴木氏は1年前、「2023年はクラウドカンパニーへの転換を実践する」と宣言した。上記の発言からは、その手応えを十分に感じていることが見て取れる。ちなみに、SAPグローバルの直近四半期(2023年7〜9月)のクラウド事業の売上高の伸びは前年同期比16%増だった。「日本はそれを大幅に上回る伸びで推移している」(鈴木氏)とのことだ。
SAPの好調の理由は何だろうか。
SAPの主力事業であるクラウドERP「SAP S/4HANA Cloud」を中心としたクラウドサービス群で、同社がDX(デジタルトランスフォーメーション)支援ソリューションとして2021年から展開しているのが大手企業向けの「RISE with SAP」だ。これに加えて、同ソリューションを中堅・中小企業にも利用しやすいように、2023年7月から日本でも提供を始めた「GROW with SAP」が多くのユーザーに受け入れられていることを鈴木氏は挙げた。
SAPの主力ソリューションは今やこの2つだ。RISE with SAPはプライベートクラウド、GROW with SAPはパブリッククラウドという分け方もできるが、鈴木氏によると「大手企業でもGROW with SAPを採用するケースが増えてきている」という。つまり大手でもSAPのクラウドERPの標準モデルを採用する企業が増えてきているのだ。同社は標準モデルの採用を促す「Fit to Standard」という言葉を強調しているが、その動きが広がりつつあることを示している。
そして、「2024年はそれを踏まえて“ビジネスAI元年”になる」というのは、2024年がSAPのクラウドERPにAI技術を本格利用していく始まりの年になるという意味だ。「ビジネスAI」という言葉は、「基幹業務で使うAI」というトレンドと、ERPを含むSAPの業務アプリケーションでAIを生かす「SAP Business AI」という同社のソリューション名の両方の意味を込めたものだ。とはいえ、両方に共通しているのは、ERPをはじめとした業務アプリケーションを多くのユーザーに提供しているSAPだからこそ、との思いがあるようだ。
「ビジネスAI元年」に向けて、SAPにおいて重要な役割を担うのがSAP Business AIだ。同社が2023年5月に発表したソリューションで、戦略的パートナーシップによってAIのオープンエコシステムを構築し、世の中にある優れたAI技術を積極的に取り込み、ユーザーニーズに応えることを目的としている。AIエコシステムのパートナーには、グローバルで有力なAIプレーヤーが名を連ねている(図1)。SAPが2023年9月に発表した独自の生成AIサービス「Joule」(ジュール)もSAP Business AIにおけるツールの一つという位置付けだ。
鈴木氏はSAP Business AIについて「経営にAIをしっかりと活用してもらえるようにするためのSAPの戦略ソリューションだ」と強調した。その上で「現時点では基本的に英語での利用にとどまっているが、2024年にはさまざまな機能を順次、日本語で利用できるようにする」と明言した。同氏が「ビジネスAI元年」を宣言した根拠の一つには、この動きがあるようだ。
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