オラクルが掲げる「エンタープライズAI」とは? 生成AI活用の勘所を考察Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2024年02月19日 15時20分 公開
[松岡 功ITmedia]
前のページへ 1|2       

エンタープライズAIを実現する要素に注目せよ

 そうしたLLMと社内データを生成AIで生かす技術として注目されているのが、RAG(検索拡張生成)だ。竹爪氏によると、RAGとは「生成AIを独自のデータソースからの情報で補完することにより、回答の精度を上げる技術」だ(図3)。

図3 エンタープライズAIの勘所2(出典:日本オラクルの講演資料)

 RAGは今後、企業が生成AIを活用する上で欠かせない技術になっていく可能性が高い。とりわけ、オラクルがRAGの適用に注力しているのは、多くの企業の社内データ基盤として利用されている「Oracle Database」と生成AIの架け橋になる技術だからだ。

 こうしてエンタープライズAIが活用されるとみられるが、そもそもエンタープライズAIを実現する要素とは何なのか。それに対し、オラクルはどのようにカバーしているのか。

 図4の左に記されているのが、エンタープライズAIを実現する要素だ。インフラの高性能GPUや生成AIサービス、マルチLLMの活用に加えて、「RAGのためのデータ」および「RAGのためのアプリケーションとの連携」と記されているのがチェックポイントだ。エンタープライズAIでは、これらのさまざまなデータやアプリケーションの連携が求められる。

図4 エンタープライズAIの勘所3(出典:日本オラクルの講演資料)

 これに対し、オラクルは図4の右に記されているサービスで対応しており、これらのデータやアプリケーションの連携にも「OCI Generative AI Agents」というサービスを用意している。ちなみに、同社はマルチLLMとして「Cohere」と「Meta Llama 2」を採用しており、今後も顧客ニーズに応じて適用拡大する考えだ。

 この図4に示されている内容が、図2および図3も踏まえた上で、企業における生成AI活用の勘所とも言えよう。

 そして、図5が図1に対応したオラクルのエンタープライズAIソリューションのポートフォリオである。

図5 エンタープライズAIソリューションのポートフォリオ(出典:日本オラクルの講演資料)

 竹爪氏に同イベントのスピーチ後に個別で話を聞いたところ、あらためてもう1点、強調したいところがあるとした。それは、今回のイベントはAIがテーマではあるが、イベント名として「Data & AI」とデータが先に付いている点だ。これについて同氏は、「オラクルはデータベースを軸にデータマネジメントを追求してきた会社で、AIもその拡張技術と捉えている。従って、4層の図(図1)においてデータは1つの層にとどまらず、全体を輝かせる太陽のような存在だと受け止めてもらいたい」と力説。データへのこだわりを示して見せた。

 最後に、今回の取材を終えて筆者が感じたことを述べておく。オラクルに限らず、生成AIを各種サービスに組み込む動きが活発化しているが、その大半が従来のサービスの「機能拡張」だ。この動きによってリプレースなど競合関係に大きな変化が起こり得るのかどうか。エンタープライズ向けサービスは、まず現存の顧客を取りこぼさないことが大前提だが、その先のリプレースや新規顧客の開拓につながるとすれば、何がセールスポイントになるのか。

 そう考えたとき、今回の記事でも竹爪氏の発言としてたびたび出てきた「生産性の向上」「イノベーションにつながる」「高いコストパフォーマンス」がキーワードになるのかもしれない。果たして、オラクルがエンタープライズAIによってリプレースや新規顧客の開拓にどれだけつなげられるだろうか。引き続き、注目していきたい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ