マイクロソフトが狙うのは「CopilotのWindows化」? プライベートイベントの取材から考察Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2024年02月26日 17時50分 公開
[松岡 功ITmedia]
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マイクロソフトが狙う「CopilotをWindowsのように」

 1については、Copilotがビジネス全体に生産性向上をもたらす要因として「エンタープライズグレードのセキュリティ、プライバシー、コンプライアンスに対応した責任あるAI」「アウトプットは常に制御可能」「社内データとWebデータの包括的活用」の3つを挙げた。また、Copilotは汎用的に使えるとともに、さまざまな業務向けに適用したサービスとしても展開していく。例えば、セールス向けなら「Microsoft Copilot for Sales」といった具合だ(図2)。

図2 Copilotはさまざまな業務向けに適用したサービスとしても展開(出典:「Microsoft AI Tour Tokyo」オープニングキーノートの説明資料)

 2は、Microsoftが提供するCopilotを導入するのではなく、オープンなAIプラットフォーム「Azure AI」と、パートナー企業との連携によって、顧客企業が独自のAI機能を構築できるという意味だ。Azure AIは現在グローバルで5万3000社以上が利用している。「そのうち3分の1以上がこれまで(クラウドサービスの)Azureを使っていなかった新規顧客」(沼本氏)とのことだ。Azureユーザーの拡大がCopilot展開の重要な目的の一つであることが見て取れる。さらに同氏は、Azure AI上では、大規模言語モデル(LLM)としてOpenAIの「GPT」だけでなくMetaの「Llama 2」やCohereの「Cohere」なども利用できると説明した。LLMを複数利用できることは、これまでMicrosoftはあまり発信していなかったのではないか。少なくとも筆者には新鮮に聞こえた(図3)。

図3 Azure AIの利用状況(出典:「Microsoft AI Tour Tokyo」オープニングキーノートの説明資料)

 パートナー企業について同氏は、「Microsoftのパートナーエコシステムとしてはグローバルで40万社以上と提携しているが、その中からAIに特化したエコシステムを現在整備しているところだ。日本では既に150社以上がAIに特化したパートナーとして活動している」ことを明らかにした(図4)。

図4 日本のAIパートナーの状況(出典:「Microsoft AI Tour Tokyo」オープニングキーノートの説明資料)

 上記の「5万3000社以上」も「150社以上」も、おそらく同社が生成AI市場で大きく先行していることを知らしめるには十分に効果的なのだろう。マイクロソフトのそうした意図を感じる数字だ。

 3について沼本氏は「どんな技術革新もリスクを伴う。技術が強力であればあるほど、リスクへの対処は重要になる。AIはまさしくそういう技術なので、設計段階から安全性や信頼性には最大限の配慮を払う必要がある」と話す。そのため、Copilotについては「Copilot Copyright Commitment」を掲げ、対応を図っている(図5)。

 「MicrosoftはAIトランスフォーメーションをリードするチャンスを皆さまにお届けしたい」と述べてキーノートスピーチを締めくくった沼本氏は、その後、記者会見に臨んだ。そこで筆者は「MicrosoftがCopilot普及の今の勢いを今後も維持し拡大する上で一番のポイントは何か」と聞いた。すると、同氏は次のように答えた。

 「最も重視しているのはCopilotを世の中に浸透させるスピードだ。そのため法人向けも個人向けも、また有料版だけでなく無料版の数の伸びも注視している。浸透のスピードを重視しているのは、Copilotを『Windows』のように常日頃、習慣として使ってもらえるものにしたいからだ」

 「CopilotをWindowsのように」という発言に、MicrosoftがCopilotに注力している理由が集約されているのではないか。同社のCopilotに対する根本的な考え方はこの点にあるといえよう。

図5 「Copilot Copyright Commitment」(出典:「Microsoft AI Tour Tokyo」オープニングキーノートの説明資料)

 そんなマイクロソフトの生成AIに関する市場競争において、筆者が今後注目したいのは、エンタープライズ(大企業)向けアプリ(SaaS《Software as a Service》)市場の勢力図を同社が塗り替えられるかどうかだ。ERP(Enterprise Resources Planning)やCRM(Customer Relationship Management)といったエンタープライズアプリ市場では、SAPやオラクル、セールスフォースが大きな存在感を持ち、マイクロソフトはそれらの牙城をなかなか切り崩せないで来た。そうした状況をCopilotで揺り動かし、競合他社を追撃することができるか。競合他社も生成AIの組み込みには注力しており、リプレース合戦が繰り広げられることになるかどうか、注視したい。

 一方で、ユーザーから見れば、市場競争によってアプリのクオリティーのレベルアップが大いに期待できる。ERPやCRMが生成AIでどう変わるのか。こちらも注視したい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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