そうした可能性と課題があるAIエージェントのマネジメント対策として、富士通はどのようなソリューションを提供するのか。岡田氏は次のように説明した。
「複数のAIエージェントが協調する環境作りに向けて、当社は“コンポーザブルアーキテクチャ”を提唱している。これはまさしく複数のベンダーのさまざまな業務向けのAIエージェントを連携させて、企業の業務全体の効率化や生産性向上を図り、サプライチェーンも最適化して力強く成長することを目的とした取り組みだ」(図2)
「コンポーザブルアーキテクチャ」について、同氏はこんな見方も示した。
「コンポーザブルアーキテクチャは、企業にとって何を意味するのか。これまで長らく“経営とIT”あるいは“ビジネスとIT”の関係について一体化させることが重要だという議論があったが、その実現が難しいことも広く認識されてきたと思う。人に置き換えると、経営者やビジネスパーソンと、ITを担うエンジニアとのコミュニケーションにはギャップが生じやすかった。AIエージェントはそのギャップを埋める存在になり得るのではないか。AIエージェントを有効活用するには、両者がしっかりと連携することが不可欠だ。つまり、コンポーザブルアーキテクチャはこれまで難しかった“経営とITの融合”に向けたアプローチだ」
ITという言葉は、「AI」あるいは「デジタル」と置き換えてもいいだろう。この見方は、「企業にとってのAIエージェントの正体とは何か」という疑問に対する核心の答えだと、筆者は感じた。
なお、富士通のAIエージェントへの取り組みについては、本連載の2024年12月16日掲載記事「AIエージェントの進化形は? 富士通のテクノロジー戦略から探る“企業を支えるAI戦略”」を参照いただきたい。
最後に、AIマネジメント対策として、訴求したい点を聞いたところ、岡田氏は次のように述べた。
「AIエージェントの活用に向けて取り組む姿勢として、失敗を恐れずにチャレンジしていただきたい。AIエージェントは“ティッピングポイント”を超える時期が必ず来るので、それを先取りするくらいの発想が必要だ。企業として複数のAIエージェントをどう生かしていくかを考えてしっかりと準備すれば、AIについては早く着手したほうがエージェントのクオリティーが向上するのも早いので、ぜひ積極的にチャレンジしていただきたい。その際、当社をパートナーに選んでいただければ、最大の効果を生み出せるように尽力する。日本から世界へ自信を持って発信できるAIエージェントの活用事例をどんどん広げたい」
「チャレンジ」という言葉を繰り返す岡田氏の熱いメッセージが印象的だった。「ティッピングポイント」とは、ある時点から一気に普及テンポが上がることだ。筆者の見るところ、恐らくそれは2025年に訪れるだろう。先に紹介したデススパイラルでは、限定的な領域から始めることに警鐘を鳴らしているが、肝心なのはAIエージェントの正体を理解し、将来像を描いた上で、投資効果を素早く上げられるところから積極的に取り組んでいくことだろう。岡田氏の話を聞いて、そう感じた次第である。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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