図4は、小売店と来店客の関係における小売業界向けソリューションの流れを示したものだ。
先に述べたCXの主な3要素をこの図の流れに当てはめれば、マーケティングは来店前、購買体験は来店からショッピング、購入まで、アフターフォロー/カスタマーサービスは購入後となる。ただし、マーケティングは全体の流れで得た情報をその後に生かす形にもなる。
五十嵐氏は図4について、「AWSは、来店前の『CE(カスタマーエンゲージメント)』から、(リアルな店舗の)スマートストアや(バーチャルな店舗の)デジタルコマースへの来店、ショッピング、購入、そしてカスタマーサービスにおけるCE、それらを支えるサプライチェーンにおける先進のソリューションを提供していく」と説明した。
なお、AWSジャパンではそうした各種ソリューションを、2025年3月4〜7日に「東京ビッグサイト」(東京都江東区)で開催されるイベント「リテールテックJAPAN 2025」へパートナー企業と協同で8年ぶりに出展する予定だ。
会見後の質疑応答で、生成AIが小売業界向けビジネスにもたらすインパクトについて聞いてみた。質問の意図は、この分野のビジネスについてはAWSと競合するクラウドベンダーも注力しており、ユーザーにとってもそのインパクトは重要な動きになるからだ。これに対し、五十嵐氏は次のように答えた。
「AWSのソリューションもさることながら、小売業界向けに生成AIを活用したソリューションがパートナー企業から続々と出てきており、それらをうまく活用していくことがお客さまの競争力強化につながると確信している。その勢いが、私が今感じている最大のインパクトだ」
最後に、今回の会見での話から、筆者も一言述べておきたい。
それは、小売業を成功に導く「向上の3ステップ」があるのではないかということだ。向上の3ステップとは、「CX向上からCE向上、そしてブランド向上へ」といった段階を指す。
筆者の考察のプロセスを申し上げると、今回の会見での最初のキーワードはCXだ。CXについては先に顧客体験と記したが、ここではさらに「感動的な顧客体験」と捉えたい。そして、図4においてCEという言葉が出てきた。「エンゲージメント」は今や流行り言葉でさまざまな解釈があるが、ここでは「愛着心」と捉えたい。
つまり、顧客にとって感動的な体験が愛着心を高め、ひいては企業の競争力にとって最大の価値である「ブランド」の向上につながるというステップだ。このステップアップに生成AIをどう生かしていくか。小売業界ではこれからますます面白い動きが見られそうだ。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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