ある調査によると、日本で最も利用されている業務アプリランキングの5位に食い込んだBoxは、世界版ランキングでは上位15位に入っていない。日本市場でBoxが“成功”した背景にある「2つの要因」とは。
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Boxは、米国で2005年に産声を上げたクラウドストレージ企業だ。創業から20年、「スタートアップ」という枕詞はもはや同社には似合わない。大学在学中に同社を共同創業し、現在もCEOとして率いるアーロン・レヴィ(Aaron Levie)氏は2025年、41歳になる。Boxには独立系SaaSベンダーとしてシリコンバレーで生き残ってきた貫禄すら漂う。
そのBoxが2025年9月11〜12日に米国サンフランシスコで開催した年次カンファレンス「BoxWorks 2025」でAI機能やAIエージェントを発表し、「インテリジェントコンテンツ管理」を前面に打ち出した。
同イベント会期中、日本法人であるBox Japanを率いる佐藤範之氏(社長執行役員)に、Boxの動向や日本での戦略を聞いた。
(訂正とお詫び)Box Japanの佐藤範之氏の肩書を公開時に「代表取締役社長」としていましたが、正しくは「社長執行役員」でした。お詫びして訂正いたします。本文は修正済みです(2025年10月30日17時更新)
筆者が最初に参加した2015年の「BoxWorks」と比べると、会場には日本からの参加者の比率が高くなったように感じる。それもそのはずで、Boxの全売上高に占める日本市場の比率は2025年1月時点で23%を超えており、米国に次ぐ大きさだ。Oktaが2025年3月に発表した業務アプリケーションの利用動向レポート「Businesses at Work 2025」によると、「日本国内で最も利用されている上位10業務アプリ」のランキングで日本市場における「Box」は5位に入った。なお、同調査の世界版の「最も利用されている上位15業務アプリ」ランキングにBoxは入っていない(注1)。
これを見ると、Boxは日本市場において成功したと言っていいだろう。日本での成功の立役者である古市克典氏(現:代表取締役会長)からバトンを受けた佐藤氏は、その理由を次の2つの要因から分析した。
2014年にBox Japanに入社した佐藤氏は、「最初から『パートナー100%モデル』でビジネスを進め、SMB(中堅・中小企業)とエンタープライズの両方に訴求した。組織と売り上げが拡大する中でパートナー企業にはBoxのビジネスにしっかり関与していただいている」と振り返る。
同社のパートナー企業は現在、300社を超えている。最近ではディストリビューターであるダイワボウ情報システム(DIS)と提携し、同社が抱える1万8000社のパートナー企業がBoxを販売する体制を整えた。「これがSMB市場の大きな強化になる」(佐藤氏)
文書文化については、「日本の組織はプロジェクトを始めるとなると計画起案書を作成し、そこに関係者がサインをして合意したことを示す。文書で報告業務を実施するなど、各ステップで文書が密に連動している。Boxは文書管理だけでなくセキュリティの仕組みもあり、そこが日本の組織に受け入れられた」(佐藤氏)
これらに加えて、MicrosoftやGoogleが提供するオンラインストレージをラインアップにそろえており、競合となり得るクラウドベンダーと良好な関係を築いている点も日本における特徴だという。
「日本で1人当たりが利用しているファイル数は世界の平均よりも多い。Boxの契約更新率は98%を超えている」と佐藤氏は胸を張る。
日本の組織には「ファイルを捨てない文化」があり、Boxの特徴である容量無制限が大きな価値となっている。
Boxの容量無制限を支えるのが、2024年に完了したITインフラの全面移行だ。Boxはエクサバイト(EB)を超えるデータを「Amazon Web Services」(AWS)、「Google Cloud」「Microsoft Azure」といった主要クラウドプラットフォームで管理している。「(データ管理を)IaaSに移行してから利益率が改善した。ストレージのコモディティ化で年々コストが下がっている」と佐藤氏は説明する。
Boxは「BoxWorks 2025」会期中、AIエージェントを活用して内容を抽出する「Box Extract」、ワークフロー自動化のためのエンジン「Box Automate」などを発表した。中でもBox Automateではドラッグ&ドロップでフローのトリガーやアクション、AIエージェントを組み合わせてワークフローを自動化するもので、適切なチェック機構を入れたり人間が介入するフローを組んだりできる。
佐藤氏によると、レヴィ氏は「AIはBoxにとって最高の出会い」と述べており、AIによってBoxが目指す非構造化データの活用が実現するとみているという。
「BoxWorks 2025」では、マルウェアなどの脅威の検出やアクセス制御などのセキュリティ機能「Box Shield」が、AIを搭載した「Box Shield Pro」として発表された。AIによって文書の機密性を自動で分類するといった機能が加わっている。佐藤氏によると、「BoxWorks 2025」で発表された中でもBox Shield Proへの関心は高いという。
Boxはクラウドストレージからコンテンツクラウド、そしてインテリジェントなコンテンツ管理へと自社製品のポジションを拡大、進化させている。日本ではファイルサーバのリプレースがBoxの入り口になっていることが多いというが、日本のユーザーはその進化についていっているのだろうか。
佐藤氏は「お客さまはBoxのワークフローや電子サイン、AIなどの機能を評価して導入するという意思決定をしている」と述べる一方で、全ての機能が同社の想定通りに使われていないケースがあることを認めた。特にAIに関しては、Boxの高度な機能が使われることを重視しているそうだ。「ファイルは集まっているので、どう利用するのかという点でAIに期待している」(佐藤氏)。
それを後押しするために、Box Japanは2025年1月、AIエージェントを構築してテスト、管理する「Box AI Studio」(以下、AI Studio)やコンテンツプロセスの自動化などを実施する「Box Apps」といった新しい機能が利用できるプラン「Box Enterprise Advanced」(以下、Enterprise Advanced)を導入した。すでに野村総合研究所(NRI)や農林中央金庫など、既存顧客の同プランへの移行が進んでいるという。
「お客さまに寄り添って利用率を上げるカスタマーサクセスマネージャー(CSM)が、ユースケースに焦点を当てた活動をミッションとしている」と佐藤氏が話すように、単なるクラウドストレージにとどまらないユースケースを増やすことが目下の課題のようだ。Boxを導入するIT部門と、ユーザーとして利用する事業部門では視点が異なることもあるため、経営幹部にアプローチしているという。
こうした工夫もあってか、新しいBoxの使い方が少しずつ普及している。化学業界のある顧客企業はファイルサーバのリプレースとして3年前にBoxを導入し、外部とのコラボレーションや文書のセキュリティなどの機能を活用していた。Enterprise Advancedへの移行に当たって、Box Japanのデリバリーチームがさらに価値を引き出すユースケースを模索したところ、営業担当者がBoxのメモ機能「Box Notes」で日報を作成し、AIを適用してToDoリストを生成して管理するシステムと連携させているという。
AI Studioを使ったユースケースとしては、外部との契約締結に当たって100近くある項目を自動でチェックし、その根拠を示しながら評価を色別で表示しているという。
佐藤氏によると、Box Japanは10年以上にわたって2桁成長を維持している。今後もこのペースを維持し、グローバルの売り上げにおける日本市場の比率を30%にするという目標を掲げているという。
そのために、当面はEnterprise Advancedへの移行の支援が重要な取り組みになると佐藤氏は語る。同社の営業部門は現在、顧客企業の規模に対応したチームを作っており、金融や公共などの一部の業界に対しては独立チームを設けている。以前から利用率が高い製造業に加えて、2025年8月には航空自衛隊がBoxの導入を発表し、大学などの教育機関でも導入が進んでいるという。「箱根駅伝出場校の3分の2にBoxは入っている」(佐藤氏)
Box Japanは引き続きSMBにフォーカスしている。「大手企業がサプライチェーンでBoxを活用している中で、取引先の中小企業もBoxを使える環境にする。これにより日本経済にインパクトを与えたい」と佐藤氏は語る。DISのようなディストリビューションパートナーを増やし、地方の大手企業にBoxを広める戦略だ。
社内文化にも気を配る。現在、Box Japanの従業員数は約250人。「そろそろセクショナリズムや前例主義など大組織ならではの“負の影響”を懸念しなければならない」と佐藤氏は自戒を込めて語る。
日本市場の好調さから、米国本社が日本の顧客企業のリクエストにすぐに応じるという「良いサイクル」も生まれているという。「日本法人がCEO直下の組織体制になっており、レヴィ氏に直接リクエストできることも、このスピード感を支えている」(佐藤氏)
CEOのレヴィ氏は「コンテンツの世界を変えたい、人と組織の働き方を変革する」という強い思いがあるとのことだ。文書文化が強い日本と相性の良いBox、その進化はまだ続くだろう。
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