「AIがテレワークを終わらせる」は本当か? 現実的なシナリオと生存戦略を考える編集部コラム

「テレワークができる仕事ほどAIに奪われる」という予測は現実となるのでしょうか。直近の動向を基に、「オフィス回帰」の現状と、AI時代の生き残り戦略について考察します。

» 2026年01月14日 08時00分 公開
[村田知己ITmedia]

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 AIの進化によって、われわれの働き方が大きく変わるという見方が専門家の間で広がっています。その中には、コロナ禍で普及した「テレワーク」が転換点を迎えるという指摘もあります。

 Google DeepMindの共同創業者シェーン・レッグ氏(チーフ・AGI・サイエンティスト)は、数学者のハンナ・フライ氏との対談の中で、どのような仕事がAIに取って代わられやすいかについて「(PCを使いインターネット経由でリモートでできるような)仕事ができるなら、それはおそらく極めて認知的(cognitive)な仕事だ。そのカテゴリーに属する場合、高度なAIはその領域で機能できるようになる」と述べ、「テレワークができる仕事」はAIに代替されやすいという考えを示しました。

 既に現在「オフィス回帰」によってテレワークは減少傾向です。AIの進化によって、この流れはさらに加速するのでしょうか。

プロフィール

村田知己(ITmedia エンタープライズ/キーマンズネット 編集記者)

大学院修了後、市場調査会社でのエンジニア職を経て、2022年アイティメディア入社。キーマンズネット編集部、データ分析基盤構築・SEO担当を経て、現在はITmedia エンタープライズ/キーマンズネット編集部でAI関連製品の取材を担当。

0歳の娘を可愛がるために何としてもテレワークを続けたいが、いざという時に会社に逆らう度胸はない。

生成AIブーム、テレワークへの影響は?

 まず、現状のテレワーク実施率を見てみましょう。国土交通省が実施した「令和6年度 テレワーク人口実態調査」では、雇用型のテレワーカー(雇用型就業者の内、テレワークをしたことがある人)の割合は20.9%でした。ピークの2021年(24.5%)から減少していますが、減少の幅は狭まっています。パーソル総合研究所が毎年実施している「テレワークに関する調査」も同様の傾向で、テレワーク実施率は2022年2月(28.5%)をピークに減少していますが、近年は横ばいです。

 では、2021〜2022年以降のテレワーク実施率の減少はAIの普及の影響なのでしょうか。

 昨今の生成AIブームのきっかけとなった「ChatGPT」のリリースは2022年11月なので、オフィス回帰は生成AIブームの前から始まっていたことになります。国土交通省の「令和5年度 テレワーク人口実態調査」ではテレワークを実施していない理由として「職場からの指示」「現地作業が必要」に次いで、「テレワークだとコミュニケーションが取りにくい」「テレワークのための機器が備わっていない」「新型コロナウイルス感染症対策としての必要性がない」などが上位に挙げられました。オフィス回帰に舵を切ったLINEヤフーメルカリGMOインターネットグループなどが公表している方針でも、「コミュニケーションの円滑化」が出社指示の理由として挙げられています。つまり、「コロナ禍のため仕方なくテレワークしていた」という層がオフィスに戻り始めたのが2021〜2022年で、少なくともこの現時点では「AIがテレワークを減らしている」とは言えなさそうです。それ以降はテレワーク実施率が概ね横ばいのため、生成AIの影響はまだテレワークには及んでいないと思われます。

今後はどうなる?

 ただし、この傾向が今後も続くとは限りません。対面でのミーティングが減ると、特許の引用が減る(つまり、企業間のアイデアの交換が減る)という報告や、テレワークやハイブリッドワークによって従業員のアイデアの質や量に悪影響があったという指摘があります。生成AIによって定型タスクが圧縮されると、会社員の業務の中心はアイデア創出や調整、意思決定に移ります。こうなると、先ほど挙げたような研究結果を根拠に、出社を強制する企業が増える可能性があります。冒頭で取り上げたレッグ氏の発言も、この流れに沿うものです。

 一方、テレワークの導入には企業側にもメリットがあります。厚生労働省が公表した事例では、横浜市の電気工事企業において、従業員の募集要項に「在宅勤務可能」と記載したことで毎年300人以上が応募するようになったといいます。同省は、テレワークには子育てや介護、家族の転勤のための離職を防止する効果もあると説明しています。このメリットを享受するために、テレワーク制度を堅持する企業もあるでしょう。

 テレワークの課題だったコミュニケーションが、AIによって一部解消される可能性もあります。チャットツールや電子メールツールが備えるAI要約機能やAI執筆機能を使えば、コミュニケーションのハードルが下がるかもしれません(個人的には、もう少し精度が上がってほしいのですが……)。

 結局のところ、AIの進化によってテレワークは増えるのでしょうか、減るのでしょうか。レッグ氏の予想をなぞる形になってしまいますが、「ゆるやかに減る」というのが私の予想です。「テレワーク可」と書いておけば人が集まるのであれば、制度自体は残す企業が多いでしょう。「テレワーク制度がある」という意味での「テレワーク実施率」は下がらないかもしれません。ただ、その中で週に何回出社するかは業務内容次第、ということになります。

 生成AIは単なる対話型から、業務を実行するエージェントに変わりつつあります。「Claude Desktop」の「Cowork」や「Microsoft 365 Copilot」のエージェント機能、「ChatGPT agent」「Manus AI」など、AIが仕事を肩代わりする製品は既に世に出ています。コーディングエージェントを“汎用(はんよう)的なツール呼び出しエージェント”として使っているユーザーも一部いますが、早ければ2026年中には、この流れがアーリーアダプターからアーリーマジョリティーに広がりそうです。

 PCでできる作業が圧縮されると、企業は従業員に「給料を減らして働く日数を減らす」か「同じ業務時間でより多くの仕事をする」か、どちらかを迫るようになりそうです。おそらく、多くの企業は後者に傾くのではないでしょうか(従業員は給料を減らしたくないし、企業は数字を積み上げたいので)。業務範囲が広がると、求められるアイデアの量も調整事も増えます。これらを迅速に処理しようとして、結果的に出社回数が増えていた、ということが起きる気がしています。

どうしてもテレワークしたい! そんな人はどうすれば?

 ゆるやかにテレワークが減っていく(かもしれない)社会で、どうしてもテレワークがしたい人はどうすればいいのでしょうか。そういう社会でテレワークをするには、テレワーク制度がある企業に入った上で、周りの理解を得て制度を利用したり、それが許されるポジションに就いたりする必要があります。結局のところそれは、企業にとって有用な人材であり続けなければならない、ということなのかもしれません。

 生成AI時代に有用な人材とは、という点については、Amazon Web Services(AWS)の年次イベント「AWS re:Invent 2025」の基調講演で同社CTO(最高技術責任者)のワーナー・ヴォゲルス氏が語った内容がヒントになりそうです。

 ヴォゲルス氏は現代を「第二のルネサンス」と定義した上で、そのような時代の開発者に必要な資質の一つとして「ポリマス」(博識家)であることを挙げました。ポリマスとは、自身のドメインに関する深い知識を持ちつつ、それがより大きなシステムの中でどのように機能するかを理解するための広範な知識を兼ね備えた人物を指します。この話は開発者を念頭に置いたものですが、全てのビジネスパーソンに通じる話のように思えます。先述したように、AIが単純作業を完璧にこなす世界では、人間の業務範囲がどんどん広がります。さまざまな知識を持ち、自身の仕事が社内外にどのような影響を与えるかを理解していなければ、業務の幅を広げていくのは困難を極めるでしょう。また、自身の業務に異なる分野の知識を組み合わせることで、新たな価値創出や効率化が可能になるかもしれません。

AWSのCTO ワーナー・ヴォゲルス氏(出典:筆者撮影)

 ここまで偉そうに書いた私もまだまだ若手。娘も生まれたばかりなので、テレワークが必要な場面であふれています。この権利をこれからも気持ちよく行使できるように、ポリマスを目指し「テレワークでも成果出せます!」と社内でアピールしていこうと思います。本稿が、テレワークを望む読者の皆さんの参考に少しでもなれば幸いです。

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