第6章 サービス・システム 〜製品に付随するサービスが優良顧客に繋がる〜eCRM実現のためのメソドロジー入門(6)(2/2 ページ)

» 2001年06月09日 12時00分 公開
[松尾順,@IT]
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 では次に、この直接的なコミュニケーションを中心とするサービス施策の設計において留意すべき3つのポイントを紹介しましょう。「カスタマーインサイト(顧客洞察)の3原則」と私が呼んでいるものです(図3)。

図3 カスタマーインサイトの3原則 図3 カスタマーインサイトの3原則

カスタマーインサイトの3原則を考慮する

 まず、1つ目は「コスト/タイム・セービング」です。

 これは、時間やコストを節減できるかどうかを顧客は重視する、ということです。極めて単純な例ですが、製品が故障したのでカスタマーサポートに電話するというとき、フリーダイヤルではなかったら頭にきませんか。なぜ自分が電話代を負担しなければならないのだ?

と感じると思います。あるいは、何度電話してもつながらない、つながったと思ったら10分以上待たされた、という経験はありませんか。おそらく、顧客は、このような納得できないお金や時間を使わせるような企業の製品を再び買いたいとは思わなくなるでしょう。

 2つ目は、「レコグニション」(顧客認知)です。

 これは5章で示した「パーソナライゼーション」が有効な理由です。人はだれでも、自分という存在を認めてほしい、自分がどういう人間かを知ってほしいという欲求を持っています(だれに大してもというわけではありませんが)。

 もし何度も来店しているお店で、こちらは店員の顔を覚えているのに、初めての客のように扱われたらあまり気分は良くありませんね。いいかげんお得意さまの顔ぐらい覚えろよ、と思うでしょう。逆に、すぐに自分に気付いて名前で呼びかけてくれて、常連客としてのふさわしい扱いをしてくれたら、また行きたくなるのではないでしょうか?

 最後は、「ピース・オブ・マインド」(心の平安)です。

 ある製品を購入した後、顧客は、本当にその製品を購入してよかったのかどうか、その製品は本当にいいものだったのかどうか、不安にかられることがあります。製品自体を取ってみればどの会社のものもそれほど違いがないわけですから、自分の判断に絶対の自信を持てる人は少ないでしょう。もし、こんな状態の顧客に対し、親身なアフターサービスを提供できたとしたらどうでしょう。やっぱりこの製品でよかった、という確信を与えることができます。つまり、顧客は安心することができたわけです。この状態をピース・オブ・マインド(心の平安)と呼ぶのですね。

 優れたアフターサービスは、社会心理学で「認知的不協和」といわれる、上記のような顧客の不安定な状態を解消します。顧客に対して、精神的な充足感を与えることができるのです。ですから、継続して購入してくれる優良顧客(ロイヤルユーザー)を創造することにつながるのです。

まつおっち先生の“ココがポイント”

顧客との直接的コミュニケーションの場では、顧客に余計な負担をかけない、顧客の個別性を無視しない、顧客に不安を与えない、という顧客本位の対応が求められる


サービス・システム運用時には、人的要素の面を考慮する

 さて、サービス施策は、上記3つの原則を守って設計することで高い成果を上げることができるのですが、人が介在する要素が多いだけに、がっちりと細部まで決め込むのではなく、現場の人間がある程度自分の裁量で行動できるような仕組みにしておくことが必要です。どんな状況においてもしゃくし定規な対応しかしない、まるでプログラム化されたロボットのような感情が欠如したマニュアル行動は、顧客との関係づくりにはむしろマイナスとなります。

 また、顧客と接する社員の評価基準が、顧客へのサービスを向上させることではなく、もっぱら生産性を高めることにあると、優良顧客を生み出すことに失敗します。パソコン直販大手のある会社では、カスタマーサポート人員の評価基準として、「顧客の問い合わせを処理する速さによって報酬が決まる」というのがあったそうです(現在は廃止)。そのため、1件の問い合わせをなるべく早く終わらせようとして、顧客対応がおざなりとなり、顧客満足度が大幅に低下しました。非効率・過剰なサービスにならないようにしないと利益が圧迫されるのは確かですが、評価基準の設定には優良顧客の創造という視点を忘れるべきではありません。

欠かせない顧客データベース

 最後にサービス施策を支えるIT施策についてお話しします。

 サービスは人的な要素が多いとはいえ、限られた人員で数多くの顧客に対応しなければなりません。そのためには、顧客データベースの活用が不可欠となってきました。顧客1人1人を認識(レコグニション)し、過去の購買履歴などを参照しつつ、きめの細かいサービスを提供するための情報基盤、それが顧客データベースの意義です。

 しかも、理想的には、あらゆる部署・部門で共有される統合顧客データベースを構築することが必要です。顧客にとっては、同じ企業であれば、どの店も、どの部門も、どの社員も同一の企業としか見えません。店、部署によって、常連客の自分が認識できない、対応が異なる、というのでは顧客との良好な関係づくりはできないのです。

 従って、企業全体で一元化された顧客データベースをどの部署でも即座に参照できるようなIT施策を実施し、「ワンフェイス・ワンボイス」を実現することが、サービス・システムを通じた優良顧客創造の前提といえるでしょう。

 さて、実際に上記のような仕組みを構築するためには、「第4章:セールス・システム」でも紹介したSiebel、Vantiveといったフルパッケージ化されたCRMソフトを活用するのが一般的です。「ワンフェイス・ワンボイス」を実現するということは、営業マン、カスタマーサポート、一般社員も含めて、全社員が顧客をきちんと識別し、理解しているという状態を作り出すことですから、最終的には全社レベルでのシステム構築になります。

まつおっち先生の“ココがポイント”

生産性向上のみを追及して、人的要素を忘れてはならない。その一方で顧客対応の生産性とサービスそのものの向上のために、全社レベルでの統合顧客データベース構築は不可欠と言える


 第7章では、顧客をグルーピングする機能を持つ、「分析システム」について解説します。

※本文中に「まつおっち先生の“ココがポイント”というコーナーがでてきますが、「まつおっち先生」とは、筆者の松尾氏が仲間内では“まつおっち先生”と呼ばれて いることに由来しています。
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